終章 一

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終章 一

 食事の時間くらいしか顔を合わせることのないエルジナは、私が王宮入りして何日経ってもニコリともしないし、そもそもこちらを見ることすらない。  私のことを嫌いじゃないと明かしたくせに、いつまで何を根に持っているんだか。もっと素直になればいいのに、本当に可愛くない弟だ。  そんなエルジナに対して、私の中にも一つだけ、やらなければいけないことが残っていた。  彼が普段どこにいるのかもよくわからないので先延ばしにしていたが、ついに絶好の機会が訪れたらしい。マルグレト様の部屋を出て私室へ戻る途中、エルジナが一人で前から歩いてきたのだ。 「エルジナ殿下」  声を掛けると、彼はチラと一瞥し、そのまま無言で通り過ぎようとした。 「殿下、お待ちください。話があると言っているのです」  思わず手を引いたら、不機嫌な王子はようやく立ち止まってこちらを向いた。 「俺はお前に用などない」 「いいえ、殿下もわたくしに用があるはずです」 「なんのことだ」 「これから殿下はお部屋へ戻られますか? わたくしは一度自室に戻ってまいりますが、すぐに伺いますから、人を払って待っていていただきたいのです」  エルジナはしばらく考え込み、 「いいだろう」  そう言って、手を離すよう目線で合図した。  私は急いで部屋に戻り、エルジナに渡すものを抱えて再び部屋を出た。  途中で誰かに尋ねられたらどう言い訳しようかと思いながら、せめてマルグレト様には見つからないことだけを祈りつつエルジナの部屋へと向かう。
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