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無事に扉の前にたどり着き、ノックをすると、中から「はい」とぶっきらぼうな声が聞こえた。
エルジナの「はい」なんて聞いたことがないと思い、笑いそうになったが、笑っている場合ではないので急いで扉を開けて中に入った。
室内の配置はマルグレト様の部屋とそう変わらなかった。違うところといえば、壁に軍の紋章のタペストリーといくつかの剣が飾られていて、やや不穏といったところだろう。
私が来ると聞いて部屋を整理していたのか、彼は長椅子の前にあるテーブルの上の書物を重ねてから、
「いったい何の用だ」
とこちらに向き直った。
同時に、私が抱えているものに目を留め、それが何なのかを悟ったようで、
「なんだ。俺を脅しにでも来たのか?」
とため息混じりに言った。
私が手にした長い筒状の布包みの中には、エルジナがカーティス工房の前に落としていった紋章入りの剣が入っている。
「兄に話すのだろう。俺のしたことを」
その声には、敵意というよりも諦念が滲んでいる。
「そんなことが気がかりで、わたくしを避けていらっしゃったのですか?」
「別に避けてなどいない」
「嘘ばっかり」
エルジナはめんどくさそうにそっぽを向いた。
もっとちゃんと向き合ってくれたら、きっと話も早く進むのに。
そう思ったが、彼にそれを期待しても無駄。ことエルジナに関しては、私が彼をそうさせるしかないのだ。
「エルジナ殿下。先日貴方のお話を伺って、わたくしもいろいろと反省いたしましたの。貴方がわたくしに謂れのない敵意を向けるから、わたくしも貴方を敵意でしか見ていなかったのです。まあつまり貴方のせいなんですけれど」
「口を慎め」
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