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エルジナは剣を受け取らず、腕を組んで再びそっぽを向いた。
その横顔を見つめながら、結論が出るのを待つ。
エルジナの顔の造形は本当に美しい。私はマルグレト様のほうが断然好みだけれど、エルジナを彫刻にしたら、おそらく後世まで絶世の美男子だと語り継がれるだろう。
そんな緊張感のないことをつい考えてしまうくらいには、彼の横顔にはもう刃向かうような気配は見えていなかった。
「……傷は残りそうか?」
「え?」
「お前の腕だ。俺が兄に対してどう思っていたかは、お前が口をつぐめば今後も知られることはないだろう。だが、その傷は違う」
「ああ……」
私は自分の腕をちらりと見た。今は袖で隠れているが、この下にはまだ包帯が巻かれている。
「今のところは、自分でもギョッとするほどしっかり残っていますわ。本当に困っています」
そう言うと、エルジナはあからさまに辛そうな顔になった。この前は「自分の判断を恨め」なんて言っていたのに、実際は相当気にしていたらしい。
「でもご安心ください。マルグレト様にはもうお見せしましたわ。アシュリーとの交流中にちょっとしたトラブルがあって、彼女を庇って傷を負ったと説明しました」
「あの娘を庇った? お前が庇ったのは俺だろう」
「両方ですわ。どちらか片方なら無傷で庇えました。両方庇うには、わたくしが傷を負うのが最善の道だったのです」
「……兄は、なんと?」
「自分のせいだと言って、ご自身を責めていらっしゃいましたわ」
「フン、あいつらしい」
「ええ。おかげで貴方に泣きつくことなく済みました。まあ、傷のせいで破談になったなら、泣きつかなくても責任を取れと脅せば良かったかもしれませんわね」
そう言ってからかうと、エルジナは何も言葉を返さなかった。
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