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私は剣をそっと長椅子の上に置き、
「人前に出る際に腕を出すこともあるでしょうけれど、ご心配には及びません。わたくしの侍女はメイクの達人ですから、このくらいの傷、きれいに隠してくれますわ。――では、これで合意ということで」
もう一度エルジナの正面に回って、顔を覗き込む。
「よろしいでしょうか?」
エルジナはいよいよ鬱陶しそうに体ごと横を向いてしまった。
しばらく不機嫌そうに黙り込んだ後、
「……好きにしろ」
その言葉が聞けて満足したので、私はにっこり笑って丁寧にお辞儀をした。
「それでは失礼させていただきます」
踵を返して、扉の前まで進むと、
「デミルカ」
エルジナが呼び止める。
まだ何かあるのかしら、と思って振り向いたら、エルジナはこちらに軽く視線を流しながら言った。
「……すまなかった」
「いったい何なのかしら、エルジナのあの色気は」
部屋に戻ってリラを呼び、エルジナが最後に見せたあの表情について訴える。
「流し目で謝る人なんて初めて見たわ。どういう心境ならそうなるの!? 意味がわからないわ」
「たしかに珍しいですね」
「リラ、貴女はエルジナに近づいちゃだめよ。あんな顔を見たらきっと好きになるに決まってる。あれは悪い男よ」
「はあ、そうですか。普段お見かけする感じからは、あまり想像できませんが……。もしかして」
「何?」
「いえ、余計なことは言わないでおきますわ」
リラはすっかり口をつぐんでしまった。
アレンがいたら何か聞けるかもしれないのに、こういう時に臆せず自由に発言してくれる人がいないのは、本当にもどかしい。
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