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終章 三
マルグレト様と親しくなる中で一番驚いたのは、彼がとても頭が良いということだった。
聞いてみると、制約ばかりの王宮暮らしの中、一人で書物に没頭する時間が何よりも心安らぐひとときだったそうで、国内だけでなく周辺国のものまで、手に入った書物は全部読んだらしい。
マルグレト様の書棚には哲学や芸術、文化、数学など、読みやすいものから難解なものまで、多種多様な本が並んでいた。意外なことに、その中には統治や軍事に関するものもちゃんとあった。
稀に外国から来訪者があると、自らお願いして言語もよく学ばれたそうで、周辺国の言葉は全て読めるし話せるらしい。私も外国語をそれなりに学んできたつもりだけれど、完全に上を行かれている。
いつだったかアシュリーが「王子様は教養が深い」とかなんとか言っていたのは、平民の目から見てというレベルの話ではなかったのだ。
そして今、彼はグランシェド家が培ってきた統治論を私に教わりながら、着々と吸収している。
一度聞くだけで正確に理解するところは見ていて気持ちよく、エラルド以上に頭脳明晰なのではないかと思ってしまうほどだ。
これはどう考えても、本をたくさん読んだから頭が良いという話ではないはずだが、他人と比べたことがないのか、本人はあまり自覚がないらしい。
そういえば、婚約問題に対する私の結論を聞いた時、マルグレト様の中ではすぐに答えが出ていたと言っていたけれど、それも本当にそうだったのだろう。伝わっているのかどうかと不安に思っていた自分を、少し恥じた。
「それじゃ、今日はこのくらいにしましょうか」
「そうだね、お茶にしよう」
マルグレト様は立ち上がって部屋の外を覗きに行き、侍従に指示を出して戻ってきた。
私はデスクに広げたグランシェド家の記録書を片づけ、彼に手を引かれて喫茶用テーブルへと移動した。
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