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_持ちうる手札が幻想であるのなら、次の一手は身を滅ぼすそれ
とある所に、大きな城にも、豪邸にも見えるような建物があった。
聞くところ、中は腐るほどの本に埋め尽くされた本屋で、商品がゆうに一般の本屋の五倍用意されているところ以外、他と変わりなかった。
まるで、創造神がそこだけを掬い取って、思うように作り替えてしまったのではないかと思えるほど、その本屋は美しい。
燻みラベンダーのレンガ碧は些か派手に見えたり、しなかったり。何か青色の花は毒を持っているのだとか、いないのだとか。
ドールハウスのモデルにでもすれば高値で売れそうな、そんな景観だった。
この本屋の売り文句は、『なんだってご用意します。運命を変えて差し上げましょう』だ。
ジャーナリストである私は、明らかにどうかしている噂を聞いてここまでやってきた。
ある者は本屋で本を購入した後派手に自殺し、ある者は咽び泣き喜び発狂。ある者は遥か彼方の離島まで越して行ったという。急に頭がきれるようになって教授になった者までいるとか。
とにかく、今のところ手の内にある情報は全て、おかしなものばかりだった。
結末の聞こえが悪いのもあって、調査は難航した。
顔をしかめて何も言わず扉を閉められたことが何度あったか。
全ておかしすぎて信憑性に欠けるが、こうなったら、割り切って成り行きに任せるしかないだろう。
売れないジャーナリスト。
起死回生と言うほどの目覚ましい結果を求めているわけでは無いにせよ、貼られたこの不名誉なレッテルを剥がすために、変化球を求めていたのは言うまでもない。
到底信じ難い幻想を、人が好むのは世の習慣だ。
現に、占い師が消えないのはそのせいだろう。魑魅魍魎だの、怪異だの。信じ難いことばかりが、世を練り歩いている。ジャーナリストである私としては、聞こえは悪いけれど、売れるためにはその純粋な興味心に漬け込むのが一番手っ取り早い。
コーヒーとピアニッシモの香の満ちるバンから出ると、潮を喰んだ空っ風が髪を透かして行った。
運命を変える……もちろん、別の意味でも期待はしている。
今にも消えてしまいそうな孤高の本屋に、私はダッフルバックと重厚な様の太々しい本を片手に、一歩踏み出した。
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