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生きる意味なんてクソくらえだ
コンビニに寄る。ビールを買う。キツいだけで選んだタバコに火を着けて、咳き込みながら家路につく。
遠くでは時間を忘れたセミの声が、メスを起こそうと躍起だった。
(煩わしい)
自分の陥った状況と罵声じみたセミの声を繋げて、重い煙を肺に沈める。
息ができなくなるまで噎せこんで、喉を痛めつけた。
ユキシロと別れた瞬間から、胸が凪いだ。おかしな音も、やけに高い拍動も。
何もかも静かになって、そのうち気分が沈んでくる。例えばそう、自分の居場所を見失った時に死にたくなるような、あの感じ。
けれどそれも、煙を吸えば落ち着いた。
一般社会に帰ってしまえば、僕に居場所はなかった。
父が善意に殺された瞬間から、ずっと。
周りを見てみれば仇だらけで。僕はそいつらに疎まれ続けて。僕だけが悪者みたいに扱われて。
父が担当したダイブの依頼主も。発表された新技術に賛同して、さも素晴らしい点しかないようにダイブを後押しした大衆も。
父の犯した罪を知ってから、一転してダイブを批判し始めた。
──それ見たことか!
──だから我々は、非人道的な行いだと言ったんだ!
──なんて奴、裏切られたわ!
人道・非人道なんて、僕の知ったことじゃない。
僕はダイバーとして社会人をしていて、頼まれるから仕事をするだけだ。そこに個人的思想はない。
ただ金のためだ。
誰かを助けたいとも、思ったことはない。自分も助けられないやつが、誰かを助けるなんて夢物語だ、と思う。
──犯罪者の子供を引き取るの!?
──お前も人を殺すんだろ?
父の死後。
僕の名前は、ネット掲示板で晒されて。
親戚中を転々とした。
まず最初に友達を、次に社会的な信用と、人を信じる気力を。そして最後に、生きる気力を、自分から削ぎ落とした。
『アンタ、金ならやるから、ホテルにでも行ってきな』
家に入れてもらえなかったから、野宿したこともある。
なんの罪も犯していない僕を、汚いものを見るような目で見て。そして渡されたしわくちゃの万札は、きっと父から相続した遺産の一部だった。
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