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生まれたての罪悪感を殺して、肺に煙を送った。
最後の一吸いを大事に吐き出してから、携帯灰皿に食わせる。
「タバコは止めろよ、体に悪い」
並んで歩きながら、アマミヤが顔をしかめる。
「精神衛生上、必要な嗜好品だよ」
「お前の話じゃない、俺の話だ」
ポケットから取り出したハンカチで、アマミヤが口許を覆う。
「うちには子供がいる」
「だから今は止めてるだろ?」
僕は人前では吸わないんだ。
タバコは落ち着くし、その分だけ寿命を縮めてくれる。
吸わないと落ち着けないほど、日常に嫌気が差している人間には丁度いい。僕のためにあるようなものだ。
「そう言う問題じゃないぞ」
「わかってるよ、でも落ち着くんだ」
言葉尻に、ため息が被さった。
「所長の気持ち、わかる気がするな」
「なんでそこでジキルさんが出てくるのさ」
「危なっかしいんだよ、ミタテは」
意味がわからない。
僕はもう一流のダイバーで、国内のどのダイバーよりも経験を重ねている。失敗することもない。
今回がたまたまイレギュラーに当たっただけだ。
「結果は残してるはずだ」
「結果だけで評価される社会じゃないんだぞ」
「また説教? アマミヤさん」
勘弁しろよ。舌を叩いたのはアマミヤだった。
「今までの人生、お前がなんでも一人でやってきたとでも?」
アマミヤの瞳が、眼鏡越しに僕を睨んだ。
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