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僕が自殺に至るまでの話
僕の仕事は自殺することだった。
天涯孤独な少女をもう一度独りぼっちにするには、それしかなかったから。
豊富な休日を利用して、少しずつ自殺のための道具を買い集めた。
塩素系洗剤に、ロープや固形石鹸。遺書を封入する便せんに、簡単な葬式代の三十万円。
コツコツ物をためていくのは好きだったから、下準備にかける時間は楽しかった。
(あとは強い酒でもあればな)
バラバラにしたパズルのピースを探すような気分で、僕は空を見上げた。
ことさらに蒸し暑い、八月の暮れ。
夏の足早な夜明けは、見飽きるほどの青で。水に垂らした絵具のような雲が、空に浮かんでいる。
「ああ、そういえば」
家に入る直前。フィルターまでが灰になったタバコを携帯灰皿に入れて、ふと思い出した。
ことの発端からは、まだひと月も経っていないんだっけ。
人の思念に関する研究が一定の成果を得てから、もう十年がたった。
とは言っても、技術に制度は追い付かないもので。
教育や法律にさしたる変化が見られることも、超能力者じみた技術で対人関係の在り方が激変することもない。
相変わらず僕たちは、これまでと変わらない程度の日常を空費している。
《理想論ばかりの善人より、動く偽善者になろう!》
《死者の記憶を盗み見る人権の不法侵入者「ダイバー」》
書店のショーウィンドウに貼り出された新刊ポスターを一瞥して、また歩き出す。
不満はない。けれど希望もない。
恐ろしく凪いだ、小雨の降る日の午後のように。自分たちへの批判も、室内で聞くささやかな雨音程度にしか心を動かさなかった。
「すみません、お待たせ致しました」
事務所に戻ると、焦ったような顔をしたクライアントが僕を待っていた。
一言二言定型文のようなやり取りを交わして、仕事に移る。
「それでは、確認したい記憶は「急死されたお父様が管理していた金庫の番号」でお間違いないですね」
クライアントが頷く。それからあらかじめ準備されていた機材にチップを挿入し、ヘッドギアを被る。
「それでは、「ダイブ」中はくれぐれもお静かにお願い致します」
目を瞑る。
めまいのような感覚。白昼夢みたいに、現実の輪郭がぼやけてゆく。
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