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そして翌日。
誠の悪い予感は当たった……。
出たサイコロの目は
3
つまり、ランダムの選手による一騎打ちだ。
そして選ばれたのは……美琴であった。
「ううう……。どうしよう!負けたらどうしよう……。誠代わって!お願い!!」
美琴は震えながら誠に懇願する。
「お前の頭はニワトリか? 代えられるなら代わっている。負けてもいいから、行ってこい。」
「ほんと? 負けてもいい? 文句言わない?」
「なんで俺が文句を言うんだ? 別に俺は優勝なんて興味ない。仕方ないから出てるだけだ。」
誠の言葉に美琴は笑顔を取り戻した。
「ありがと! 誠! 元気でたよ! そうだよね、負けて当然だもんね! じゃあちょっと負けてくるね!!」
「馬鹿か!! 負けてくるといって向かうアホはお前くらいだ!」
「あはは! そうかもね、でもこんな私でもやれるってところ見せてやるんだから。」
そういって美琴はリング中央に立った。
「始め!!」
美琴の相手は、風の精霊使い。
全身を黒と白のシマシマ模様の姿であり、男か女かすら分からない。
しかし、美琴は知っていた。
この相手の試合を見た時、誠が言っていた言葉を……「こいつは強い」と……。
誠が誰かを認めることは少ない、それ故に自分の力では勝てないことはわかっていた。
それでもこれに負ければチームは負ける。
誠は負けてもいいといった。
自分も負けてくると言っている。
しかし負けたくない!
誠の前で無様な姿は絶対に見せたくない!
長期戦は不利
ならば油断している序盤から一気に仕掛けるしかない。
審判の合図と共に美琴は相手と距離を取った。
「アースクリエイト!!」
シマ鬼の地面が隆起すると、シマ鬼は風の力で飛び上がった。
「フェイントよ!!」
すると、シマ鬼の後方から先端のとがったドリル型の土の塊が放たれていた。
命中はしなかったものの、シマ鬼の頬を掠め、血がにじんでいる。
「やるわね、雑魚だと思って油断したわ。」
シマ鬼は女性だった……。
二人の戦闘を誠は黙って観戦している。
「美琴の奴いい動きだな……しかし相手が悪い……。」
誠がそういうと、リングに風が吹き始めた。
その風は次第に強くなっていき、リング中央には竜巻が現れる。
「悪いわねお嬢ちゃん、また4年後に会いましょう!」
シマ鬼がそういうと、竜巻が美琴を襲った。
「キャーーーーーー!」
美琴の叫びと同時に美琴が竜巻に飲まれてしまった。
「みこと!」
「みことおおおおおお!」
仲間達は必死に美琴の名前を叫ぶ。
竜巻が上空に伸びていき、やがて消えていくとリングに美琴の姿はなかった…
「あら、どこまでとばされたのかしらね」
そうシマ鬼が呟いた瞬間、シマ鬼の足元が地割れを起こし、美琴が地面から飛び出してきた。
実は竜巻に飲まれたのは、美琴が土で作ったダミーであった。
ばれないように叫び声をあげると同時に地面に潜る。
そうしてシマ鬼の隙を伺い、今まさに飛び出したのである。
「ここまでよ! 終わりよ!」
美琴は叫ぶと同時に土の刃でシマ鬼の腹部を切り裂いた!ように思われたがシマ鬼はまだ防御を解いていなかった。
全身を覆う風のバリアが美琴の渾身の攻撃を防いでいたのだ。
最初に油断して血を流した事を反省し、それ以降ずっと見えない風のバリアを張っていたのだ。
「惜しかったわね、残念。」
そういうとシマ鬼は手の中に水風船サイズの圧縮した空気玉を作る。
「さようなら」
シマ鬼の空気玉が美琴の腹部にあたると、空気玉は破裂した。
「ゲハ……。」
美琴は血を吐きながらも、まだ立っている。
「負けない……まだ……負けられない!」
「見上げた根性ね、いいわとどめを刺してあげる。」
シマ鬼はそういうとゆっくり風のナイフでじわじわと美琴を切り裂いていく。
全身血まみれの美琴。
しかし、まだ立っている。
「私は……絶対に負けない……。」
すると、突然誠がリングに上がってきた。
「おい審判、うちの負けだ。こいつは返してもらうぞ。」
「誠……なんで……?」
「もう十分だ……。お前はよくやった。」
すると美琴の張り詰めた緊張の糸が切れ、美琴は気を失った。
「終了!! 勝者! 土偶町!」
審判は決着の声を上げた。
会場は派手な試合に大盛り上がりである。
個人戦の能力が一番低い美琴であったが、強敵相手に必死に食い下がった。
その姿はとても勇敢であり、仲間達は美琴の戦う姿に涙を流していた。
そして仲間達は傷ついた美琴を急いで救護室に運び入れた。
しばらくして美琴の意識が戻る。
「あれ? ここは……? なんでみんなが……。」
仲間達は美琴を心配し、ずっと美琴の傍で回復を待っていた。
そして美琴の隣には誠が座っている。
「みことーーー! よかったよぉーーあんた無理しすぎなのよ!! うえぇぇん!」
凛は美琴の無事を確認し、大泣きし始めた。
「我は信じていた。必ず美琴は意識を取り戻すと……。」
武蔵も泣いている。
美琴のケガはひどく、一時は生死の境をさまよっていたのだった。
「そう……。私負けたのね、そっかぁ……。負けちゃったかぁ……。」
少しづつ美琴の記憶が戻りつつある。
「そんな事はどうでもいい。早くケガを治せ。」
誠はそう冷たく美琴に言い放つも、誠自身も自分で思う以上に美琴を心配していたのだった。
それを聞いた美琴の目には、ゆっくりと涙がたまっていく。
「ごめんね、負け……ちゃった……あああああああん!!」
そして号泣した。
誰もが期待していなかったし、負けて当たり前だと思っていた。
誰も美琴を責めるつもりもなかったのだが、当の本人は周りの想像以上に悔しかったのだった。
「美琴……よくやった。また4年後強くなって戻ればいい。」
誠は美琴にそう言うと、美琴を抱きしめて頭を撫でた。
その時、ふと誠の脳裏に懐かしい記憶が流れた。
そういえばいつだったか……。
俺もこうやって誰かに頭を撫でられたような……。
気のせいか……。
誠の薄れゆく記憶の中で朧げな映像と共に母の最期の言葉が蘇る。
愛してる……。
しかし、その言葉と映像がいつ誰からの言葉だったか思い出せない。
愛……か。
よくわからない感情だ。
誠はそんなことを思いながら、泣きわめく美琴を抱きしめるのだった。
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