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唯一信じれる者であった美琴を修羅に奪われた誠は、目の焦点が合わない程精気を失った顔で、夢遊病のようにふらふらと、慣れ親しんだ館から離れていく。
そして気が付くと自分の道場の前に立っていた。
その道場には、昨日までは「誠」の文字の入った看板があった。
だが今は外されて違う看板が立っている。
新しく掲げられている看板には
羅刹
の文字が書かれていた。
誠はそのままふらふらした足取りで自然と道場の中へ入っていく。
ふと目の焦点が道場の中に合うと、門下生が集まってきた。
誠は門下生達が自分の下に集まる姿を見て、目に精気が戻る。
ここだけは変わらないでいてくれた。
可愛い門下生だけはまだ自分の事を慕ってくれている。
「お前たち……迎えにきてくれたのか!」
誠を迎え入れようと集まる門下生を見て、誠はやっと正気を取り戻す。
しかし……それは勘違いだった。
「部外者は立ち入り禁止です! 帰って下さい!」
返ってきた言葉は無慈悲で残酷なものだった……。
「お前たちもか……お前たちもなのか! ここは俺の道場だ、部外者ではない!」
すると門下生に一人が誠の前にくる。
「申し訳ございませんが、それは昨日までの話です。師範から部外者を入れるなと言われていますのでお帰り下さい。」
その者は修羅たちが来る前からとくに可愛がって育ててきた門下生だった。
修羅たちが来てからも「先生! 先生!」と言って誠をとても慕っていた弟子だ。
誠はここにきてやっと悟る。
(もう……この町に俺の居場所はない……。)
「そうか……どうやら俺は間違ってきてしまったようだ……すまなかった……すぐ立ち去る……。」
誠はそれだけ告げると、道場を立ち去っていく。
昔の誠なら道場ごと破壊し、周りの者は皆殺しにしていたであろう……。
しかし仲間を得て、結婚をし、弟子に囲まれて過ごした時間は誠に心を与えた。
心が誠を変えてしまった。
今の誠はただ感情のままに暴れる化け物ではない。
故に何もしなかった……いや違う。
何もできなかった。
そしてこの瞬間をもって今まで培ってきた心の土台が全て消失する。
その誠の姿を道場の中で見ている者が二人いた。
「いやぁ、まじ笑えるっすね父さま。俺あいつ初めて会った時から嫌いだったんすよ。少し俺より強いからって偉そうにしやがって。ざまぁみろだ。」
「うむ、よくやったぞ修羅。ふん、あれのお蔭で俺がどれだけ手を焼いたと思ってるんだ、当然の報いだ。」
修羅と元秘書だった。
「いやぁ、しかしここまでうまくいくとは……流石父さまっすよ。」
「随分長い間計画を立てていたからな…あれがこの町に残ると厄介だ。また昔のように暴れまわったりされても困るのでな。これで奴も二度とこの町には近づかないだろう。」
「大丈夫っすよ、父さま。あいつが暴れたら俺がすぐに殺してやりますよ。」
「ふむ、そこは当然信頼している。がしかし念には念をだ。もはやあいつに昔のような強さはない、あいつは心が無かった頃の方が強かった。美琴をあいつに仕向けて正解だった。くくくくく……」
「あいつの嫁は今じゃ俺の性処理道具ですけどね。馬鹿な女だ、少し演技しているだけですぐに落ちましたよ。」
「言うな修羅、あいつは役にたった。せいぜい可愛がってやりなさい。」
「はいはーい、飽きるまでは可愛がってやりますよ。おもちゃとしてね。」
そういうと修羅は邪悪な笑みを浮かべるのだった。
今までの全ては現町長が誠に出会った時から立てていた計画通り。
すべてはこの男、元秘書の陰謀であった。
その者こそ、後に鬼族の国を蔭で牛耳ることになる
羅刹
という名の鬼である。
そしてこの道場から排出される者達は後の世に
羅刹族
こう呼ばれることになるのだった。
今これより鬼族の国は羅刹族によって全てが変わっていく。
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