鬼の国

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 誠が全てを失った日から5年が経過した。  誠は町を出てから、ひたすら自分を知らない町へ転々とさすらっていた。  あの日以来、彼は誰も信じない。  人も物も何もかも……  そして自分の力すらも……。  物心がつく頃から、誠の信じるものは自分の力のみだった……。  しかし、美琴との出会いが力以外にも信じるものを与えてくれた。  それは……自分の記憶の片隅に残っていた母の言葉    愛  だったのかかもしれない……。  美琴と過ごす事でその意味がわかるかもしれないと思っていた。  愛という感情を理解する日が来ると信じていた。  だがそれも今ではどうでもいい……。  もしも自分が経験してきたことが愛だというならば、愛などいらない。  あんな消失感は……あんな思いはもう二度としたくなかった。  あれから毎日、日銭を稼ぐように色んな町のコロシアムで見世物の決闘をしていた。  強すぎると自分の素性がばれてしまうため…コロシアムでは仮面を被り、適度に力を抑えて戦っていた。  そしてコロシアムであぶく銭を得ると、それらは全て酒代となる。  今夜もまた、誠は酒場で酒を一人で飲んでいた。  しかし、その日はいつもと違う。  盗賊のような恰好のガラの悪い鬼族達が店に入ってきたからだ。 「おう! 酒をだせ! あるだけだせや!!」  その鬼族達は横柄な態度で店主に告げる。  たくさん手下を引き連れた鬼族達は一気に店を占拠した。  そこには鎖につながれたボロボロの人族の娘もいる。  しかし、誠はそれを見ても何も思わない。  違う……何も感じないのだ。  既に誠には人として必要な感情が消えている。  唯一残っている感情は怒りだけ。 「おうてめぇ、そんな辛気臭せぇ顔して酒飲まれると迷惑なんだわ! 出てけや!」  一人の酔っ払った鬼族が誠に絡んだ。  しかし誠は無視して酒を飲み続ける。 「てめぇ聞いてなかったのか? 出てけっていってんだよ! いてぇめをみたいのかコラ?」  そいつは誠の胸倉を掴み上げた。  誠は虚ろな目でその鬼を見る。  そしてためらうことなく、その鬼族の首を氷の手刀で刎ねたのだった。    スパッ!!  鬼族の首から大量の血が噴出し、酒場の床を真っ赤に染め始めた。  しかし誠の目はそれまでと変わらず、何事も無かったかのようにまた酒を飲み始める。  その目はまるで、誠が初めて外の世界に出て、モツ煮を食べた頃と同じだった……。  感情がみじんも感じられない目だ。  すると、店内のガラの悪い鬼族達が一斉に立ち上がり、誠に襲いかかろうとした。 「てめぇ!! よくも俺の部下を殺しやがったな!! おめぇら! こいつを生きて返すんじゃねぇ!」  鬼族達は一斉に誠に襲い掛かるも、誠はそれを見る事もせずに全員氷漬けにする。  心臓が止まった鬼族達は全員絶命した。  酒場の店主は両手で頭を抱え、ぶるぶると体を震わせながらしゃがみ込む。  残されたのは鎖に繋がれた人族の娘だけだった。  その娘は凄惨な店内の状況を見ても表情を一つも変えなかった。  その娘の表情を見て、誠は興味をもった。  自分と同じ目をしているその娘に。  すべてを諦めたその目になぜか惹かれた。  そして思い立つ。  この娘は戦利品としてもらっていこうと。  人族の娘は売れば金になる。  悪いことはない。  そんな軽い気持ちで誠はその娘……小百合の鎖を引っ張り無理矢理店から連れ出した。 「おい餓鬼。お前は今から俺の物だ。文句はいわせねぇ、ここは鬼族の国、力が全てだ。」  誠はそう小百合に話かけるも小百合は表情一つ変えず、無言であった。 「ッチ! 言葉を話せねぇのか……まぁいい。それでも売れば金になる。」  そういって誠は小百合を自分の物にするのだった。
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