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【小百合視点】
小百合は誠に近づき、誠の短剣を奪う。
死のうと思った。
やっと死ねると思った。
これでパパとママに会える、そう思えば死ぬのは怖くない。
しかし、自分の首を斬ろうとした時、その男の声が聞こえた。
生きろ……無様でもいい……幸せになれ。
ふと、倒れている男に目を向ける。
その男は既に意識を失っていた。
このまま放っておけばこの男は死ぬ。
だけど、これから私も死ぬ。
だから関係ない。
それなのに、なぜかその瞳から涙が零れ落ちる。
言葉も感情も失った、涙ももう枯れ果てた。
そう思っていた。
しかし涙が止まらない…
そこに倒れている男は全く知らない男だ。
だけど、自分を守るために死んだ父親と被ってしまった。
父は死ぬときに私にいった。
「お前だけは生きてくれ、幸せになれ……。」
この男も父と同じ事を私に言った…
なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ?
なぜ私に生きろと? なぜ私に幸せになれと?
私一人に何ができるというの?
でもあの時と違う……。
今は一人じゃない……。
少なくともまだこの男は生きている。
パパは……生きている!!
助けなきゃ! パパを助けなきゃ!
死んでいる場合じゃない!
すると、小百合に変化が……
小百合の目に精気が戻り、感情の色が浮かぶ。
「パパ! 待ってて! すぐに薬を買ってくる!!」
小百合は誠の懐にあるお金を取ると、母屋から駆け足で出て行った。
小百合は走った。
周りから、怪訝な目を向けられながらも走った。
みすぼらしい恰好をした、首輪をつけた小さな女の子。
だがしかし、その女の子の目は真剣だった。
必死に見えた。
そして一見の店を見つける。
「すいません! パパが……パパが倒れちゃったんです! 薬を下さい。」
一人の優しそうな老婆の鬼が出て来た。
「どうしたんじゃ?」
その老婆は小百合に声を返す。
小百合はその老婆の角を見て一瞬固まった。
まだ鬼に対するトラウマは消えていない。
しかし、父への思いはトラウマを乗り越える。
「わからないの! 突然パパが倒れたの! だから薬を売って下さい。」
老婆は状況を察した。
しかし、なんの病気で倒れたのかわからないのでは、どの薬が効くのかわからない。
そしてあいにく、現在この店に置いてある薬は少なかった。
しかしその必死な娘の姿を見て、とりあえず今ある薬の中でどんな病気にも効果がある薬を選ぶ。
その薬は自然治癒能力を高める薬だった。
故に特効薬ではなく、ただ回復を早めるといったもの。
「お嬢ちゃん、これを飲ませなさい。後、精のつく食べ物を食べさせるのじゃ。そうすればよくなるだろう」
症状もわからないことから、ただの気休めに近い言葉だった。
しかし、何も知らない小百合は喜んだ。
「ありがとう! お金はいくらですか?」
「お金はいいんじゃよ、さぁ早く行きなさい。父親が治ったら払いにくればいいじゃ。」
「えっと……じゃあパパが治ったら絶対来ます。」
そういうと小百合は食べ物を売っている店を探しにいく。
何度も……何度も転びながらも必死で走り、そして食材を手に入れた。
体中擦り傷だらけ、そして服は泥だらけ……でも関係ない。
急がないとパパが死んじゃう。
小百合は必死で誠のところまで走って戻る。
小百合は母屋に着くと、すぐに誠に駆け寄った。
まだ息はある……そして額に手をのせると……
「熱い! 冷やさなきゃ!」
小百合は井戸から水を掬い上げ、水でタオルを冷やして誠の額にのせる。
すると、苦しそうな誠の表情がやわらんだ。
「パパ! すぐご飯作るね。だから待ってて……。」
小百合はすぐに食事の支度をした。
料理はほとんどやったことないが、母親の手伝いで少しはできる。
鍋に水を入れると、火をつけ、買ってきた具材を入れて煮込んだ。
しばらくすると、母屋の中にいい匂いが広がっていくのだった。
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