鬼の国

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 小百合は小さな手で薬を誠に飲ませる。 「この薬を飲めば元気になるよ。だから飲んで。」  小百合は笑顔で誠にそう言った。  まだ涙が溢れている誠は「あぁ……。」とだけ言って、素直に薬を口に入れる。  誠が薬を飲むのを見ると、今度はあの老婆の鬼に言われたように、精気のつきそうなお粥を持ってきた。  そしてその小さな口で何度も「ふぅ…ふぅ…」と息を吹きかけて熱を冷ましている。  続けてそのお粥を寝ている誠の口に運んだ。 「まだ熱いかもだけど、食べて。」  誠は涙を流しながら何度も「ありがとう……ありがとう……」といって食べる。  食事を終えると誠はまた眠くなってきた。  ふと気づくと、寝息が聞こえる。  小百合が誠の寝ている横で既に眠っていたのだ。  小百合の身体は既に限界だった。  そして寝ている小百合は寝言を口にする。 「パパ……もう一人にしないで……どこにも行かないで……」  小百合は寝ながら涙を零していた。  その姿を見て、誠の胸はこれまでにないほど激しく締め付けられる。  その姿を見て、誠は寝ている小百合の前で誓った。 「これからは俺が絶対守ってやる、もう絶対お前を一人にはさせない。」  その後小百合の看病のお蔭か、不思議と誠の体調がよくなっていく。  実は誠がかかった病気は精霊病という不治の病であった。  発症したら、どんな薬をもってしても治ることはない。  まだこの病気については解明されておらず、本来ただ死ぬのを待つだけ。  しかし、この時誠の中で奇跡が起きていたのだった。  それを知るのはまだ先の話である。  そして、二人の関係もまるで本当の親子のように柔らかいものになった。  今では誠が小百合を見る眼差しがとても暖かいものになっている。  対する小百合も誠を本当のパパのように慕い始めていた。  それはまるで、お互いが失った大切な何かを見つけたように…… 「小百合、俺はこの町で店を開こうと思う。お前が幸せになれるような立派な店を作る。もう力も仲間もいらない、お前さえいればそれでいい。俺の残りの人生はお前の幸せのために生きようと決めた。もし、お前さえよければ俺と一緒にいてくれないか?」  誠は小百合に己の決意を伝えるも、小百合は首を横に振る。 「ダメ、私が幸せになるには私だけではダメ。誠も幸せにならなければ一緒にいない。だから……ねぇ……パパって呼んでもいい?」  誠はまたしても小百合の言葉に号泣した。 「あぁ……もちろんだ……。お前は俺の世界一大事な娘だ……。お前がいてくれるだけで俺は幸せだ。お前がくれたこの愛こそが俺の生きる意味だ……。」  誠は初めて自分がなぜ生まれたのか、なぜ今まで生きて来たのか、その意味を知った……。  人、それをいきがいと呼ぶ。  こうして二人はその町で小さな料理屋を営み、それはやがて、その料理屋は小百合の幸せを象徴するような立派な旅館となるのだった。
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