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誠がいきがいを見つけてから10年後の事である。
とある鬼族の町に、ある一人の強い鬼族の者がいた。
その青年は町では負け知らず、故に態度もデカく、気に入らないことがあれば全て暴力で解決するようなとんでもない奴であった。
しかし、鬼族とは力が全てであり、性格の良し悪し等は二の次であったため、自然とその男の周りには人が集まる。
その男の名は
【豪鬼】
豪鬼は人族の血の混じらない純潔の鬼族であったが、その能力と戦闘センスはずば抜けていた。
当然、豪鬼の住む町の代表に選ばれ、そしてオニンピックにも出場する。
だがしかし、現実は残酷であった。
オニンピックに集まるのは広大な鬼族の国に住む各町の代表であり、当然人族のハーフも多く、その中で豪鬼の力などたかが知れていたのである。
オニンピックで惨敗した豪鬼は、今まで自分が如何に井の中の蛙であったかと思い知ると同時に、オニンピックで優勝するには純血では不可能だと悟った。
そして豪鬼の周りにいた仲間達は、豪鬼の情けない敗北姿を見ると全員消えていった。
力のない豪鬼等、もう一緒にいる意味はない。
もしも人望がある鬼であれば、周りの者が消えることはなかったであろう。
しかし豪鬼はやり過ぎていた、力の限り暴虐に振舞っていたのだ。
そして誰もいなくなった……。
彼は一人になり、むしゃくしゃした気分を晴らすため、次々と町を襲っていく。
まるで、自分の力を誇示するように……。
「俺は決して弱くない!」
と自分に言い聞かせるように、通りすがりの町の猛者共を蹴散らしていく。
当時、彼はまだ自分の弱さに向き合うことができなかった。
偶々、今回のオニンピックのレベルが高かっただけだと、自分で自分を慰めて…
そして豪鬼は次に向かった町【平安町】に着くとそこで思わぬ事態が起こった。
いつも通り、飯屋に行き、そこで店主をボコボコにして金と飯を巻き上げようとしたのだが、その店主に返り討ちにされたのだ、それも完膚なきまでに…
そこの店主は中年を過ぎたひょろっちい鬼と人のハーフであった。
「くそ、人族の血がなければ何もできねぇくせに……ちくしょうがあああ!!」
豪鬼は弱そうに見えた店主にまでボコボコにされて完全に心が折れていた。
しかし、店主はその男に向かってこう告げた。
「家族を守れる力さえあれば、俺は十分だ。そしてお前は心も力も弱く、家族すら守れないだろう。うぬぼれるなよ、くそ餓鬼が。」
「はん!綺麗事をくっちゃべってんじゃねぇ。家族なんていらねぇ、俺がほしいのは力だ。力さえあれば他に何もいらねぇ。」
店主の言葉に豪鬼は耳を傾けようともしない。
だがしかし、店主の目にはその男の姿がかつての自分と被って見えたのだった。
ただの気まぐれかもしれないが、店主は豪鬼に救いの手を差し出した。
「そうか、お前は愛を知らないんだな。だから弱い。おい、餓鬼。お前は俺に負けたんだから、一生ここで俺の奴隷な。コキ使ってやるから覚悟しろよ! まぁ、もしもお前が力より大切な物に気付いたら解放してやるよ。」
「何が愛だよ、くだらねぇ。力より大切な物?見つかるわけねぇだろバカが……いいぜ、やってやるよ! 奴隷でもなんでもよ。どうせ俺にはもう何もねぇんだ。」
自分の未来を失い、何もかも諦めていた豪鬼は、投げやりに店主にそう言った。
そして、その日から豪鬼は小さな飯屋の奴隷もとい店員として、その店に居候することとなるのだった。
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