鬼の国

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 少年がモツ煮屋で店主を殺した後、その噂は一気に町中を駆け巡った。  そしてその少年の下に一人の男が向かう。  その男は道場を開いている大柄な鬼族の男で、少年の父親のライバルであった存在だ。 「君の名前を聞いてもいいかな?」  少年はいきなり目の前に現れた男に話しかけられると、やはり煩わしく感じる。  しかしお腹は膨れているし、そいつを今殺す必要はなかった。  故に答えた。 「誠……。」 「そうか……誠か。いい名前だ。俺は善次郎だ。これから俺が家で面倒を見てやる。寝る場所を用意するから来なさい。」  男にいきなり家に来るように言われた少年は、考えた。 「家……檻……いやだああああああああ!!」  少年は突然発狂した。  少年のまわりが一気に凍っていく。  しかし、善次郎は焦らなかった。  いや、焦るよりも目の前の子供が不憫に見えたのだ。  善次郎は知っていた、その子供がずっと檻に入れられていた事を……。  優しい彼はその事で何度も誠の父親と言い争いになるもの、遂には誠を助けることが出来なかった。  善次郎は凍る道をゆっくりと歩き、誠に近づいて来る。  誠は初めて恐怖を覚えた。  自分の力を前にして進んでくる者がまるで未知の生物に見えた。  だが、この男を何故か殺す気になれない。  その目がなぜか暖かく感じたのだ。  善次郎は少年の前に立つと、少年を優しく抱きしめて言った。 「もう怖い思いはしなくていい……しなくていいんだ……。」  少年は目の前の男が何を言っているのか理解できなかった……。  そして少年は……  善次郎の胸を貫いた!  さっき感じた暖かさが何か知りたかったのかもしれない……。  殺す気はなかった。  しかし知りたかった。 「暖かい……。」  少年は手に残った男の血の暖かさを感じる。 「これが……これが暖かさ?」  少年は納得した。  自分の疑問の答えを知った。  知ったつもりになった……。  周りはその光景を見て、考えを改めた。  もう誰の手にも止められないと……。
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