# 強さ

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# 強さ

年が明ける前に約束した日が来た。 今日はハヤト先輩と海に行く… 寒い空の下、寂しげな海を見るのは 昔から俺がしてきたこと… いつの時も海を見にきた… 俺にとって海は大事な場所だから… 全身に入ったタトゥーも全部 海とか海賊にまつわるものしか入ってない… それだけ好きな場所だった。 早めに学校の門の前に着いたので連絡を入れる。 「ハヤト先輩、おはよ♡ ちょっと早いけど門の前ついたから待ってるね デート前の女の子っていつもこんな感じなのかな〜 バイク乗ってきたから、 後ろ乗って! 新年から飛ばしてこ♡」 メッセージを送ると素早く既読がついた… ちょうど携帯画面でも開いてたのか? 「おつかれ。」 携帯からじゃなくて横にいたようで話しかけられ、 携帯に気を取られていて油断してたからか、 ちょっとびっくりしたが 「デート前の女の子ってなんだよ じゃあ頼むわ。どこ行くんだっけ?海?…」 と優しい声で言って笑われるから 不思議とホッとする…包容力あんだよな… この人… 「あ!あけおめだった!あけおめことよろ♡」 やけに明るく気を張って挨拶する。 あんまり…気を遣ってほしくないし… 「おぅ。今年もよろしく」 …デート前の女子…か…… 不意にミズキの事を思い出した。 「…えっと、ハヤト先輩とデートなの、ルンルン♡みたいな女子?…ミズキの真似かな…? ……なんとなく。」 「ミズキの真似」 とハヤト先輩は俺の真似をする姿を見て普通にウケてくれる……有りなんだ、ミズキの真似すんの。 「えっ、笑いすぎじゃん!?!? ミズキに言わないでね? めっちゃ怒られるやつ… ミズキそんなじゃないーって言われんじゃん!?」 実際ミズキの事は深く知らないけど、 ハヤト先輩が大好きで一生懸命なとこ… ちょっと羨ましくて… まぁ、真似は全然似てねぇけど… つい最近喋った時に 自分を隠そうとするところとかさ… 失礼かもしれないけど 俺に似てる気がしてたから… 何でも心を開ける人なんていないけど… 開かな過ぎて四面楚歌になってる事あるんだよな… …ミズキ、大丈夫だろうか… なんて不意に心配にもなるが、 人のこと言ってらんないよな。 「俺とデートしてもルンルンするほど楽しくねえよ。」 笑い終えたハヤト先輩の口から出た言葉… …そんなこと言っちゃうんだ? 「へぇ、ハヤト先輩って、 意外と分かってないんだなぁ〜?」 もしかしたら、 わかってるのかもしれないけど、 みんなから凄い好かれてるよアンタ… それだけの力がケンカでだって人間性でだって、 両方あるんだよ。 ……、自分から見た自分って、わかんないから… …もしかしたら気付いてないかもしんないし、 ハヤト先輩にも悩みとかあるのかもしれないけどね… 俺の周りからは、いつだって“ハヤト”って名前ばっかり出てんの… 敵とか味方とか、友達とか家族とか関係なく… よく出てくんだよ… …口から出そうになる気持ちを堪え、 「海だよ!!…入ってみる〜? 海修行してみたら悟り開けるかも知んないよ?」 なんてフザケながらメットを渡した。 やばいな… …海に着く前に余計なこと言いそうだった… 嬉しそうに無理矢理作った顔… いつも通りなのに何か気持ち悪い… 「入んねーよ、足凍ってしぬわ。 バイクも相当寒いんじゃね…運転よろしく。」 とヘルメットをかぶった… 「一緒に馬鹿やってくれよと思ったのにぃ…じゃあタロ先輩にお願いしよ♡ …寒くて顔が歪むと思う〜… あ!」 絶対嫌がるだろうと女子が乗る時とかに使ってる長めのマフラーを取り出す… 嫌がられるのを承知でハヤト先輩の首にマフラーをぐるぐる巻にしてから 「これ、あったかいから使っていーよ、首の隙間が1番風入ってきてヤバいから…俺使わないし〜… じゃ、ちゃんと捕まっててね♡」 とバイクのエンジンをかけ、跨る。 後ろに乗るように促してみた… マフラー嫌がるかな? 「…こんな巻く?マフラー … まあいいや、ありがとな。」 普通に笑いながらバイクに跨る姿を見て調子が狂う。 んだよそれ…嫌がらないのかよ… 何されても親切を受け取るんだろうか… 思わず出そうになる溜息を飲み込んで 「じゃ、出発…♡」 と走り出した… …俺今…ハヤト先輩、乗せてんのか… 先輩を乗せるって初めてじゃん… やけに手汗が滲んで、 らしくない自分に 無性に腹が立った… 落ち着いて空を見上げると晴れ渡っていて、 空気がいつもより澄んでいるような気がした… 海につくと日差しが出て来くる… マフラーを受け取り、少し上着をパタつかせ 身体にまとまり付いた汗を払うようにして 俺は第一声を発した。 「意外と晴れてるーーー♡ 雪とかじゃなくてよかったなぁ〜… 釣り日和だね… おっさんに混ざって釣りしながら日光浴できそう。」 伸びをしながら歩き出すと後ろから、 ハヤト先輩は俺についてきて… 「晴れてるけどやっぱさむくね?冬やべえな… 釣りいいじゃん、ここら辺なに釣れんの?」 と海を見つめている… 海の底に眠る未知なる魚でも寄って来そうな期待が 俺の心を刺激する… ハヤト先輩と…ケンカ…してぇな… 「ハヤト先輩は寒いの苦手なんだね〜……… ……なに、釣ろうか… 」 繕っていた気持ちが剥がれていくような感じ。 いつまでも張り付いた能面が剥がれなくて、 苦しかったのに… スッと消えていくような感覚がした。 素直に話せる気がする… 今なら… 「ね、ハヤト先輩。 俺さ…… いろんなやつと話してね、 いろいろ考えてね、 聞いて欲しいことがあるんだ…」 ゆっくりハヤト先輩に近づく、 逃げずに真っ直ぐ俺を見てくれる… 拳でトンッとハヤト先輩の心臓あたりを軽く押すが微動だにしなかった… 俺の話を聞く体勢なんだろうか? 「…ハヤト先輩が、  ここが熱くなるようなものってなぁに? ドキドキしたり、 高揚するようなこと、 なんかあるー? …やっぱり、……… 喧嘩?」 ゆっくりと揺れる波の音が耳につく 静かに流れる時間、頬を撫でる優しい風が髪に触れて抜けていく… 「聞かれたことねえから、 合ってるかわかんねえけど。 まあお前の言う通り、けんかでもそうおもうよ。 なんで?お前は何に悩んでんの?」 ……悩んでる、というよりは戸惑っていた… …自分の殻を破るってこういうことなんだろうか、 …不安  ーーー 「悩んでないよ. 聞いて欲しいことがあるから、 返答次第で話そうかなって聞いてるんだぁ…… いつも俺はそうなの。 誰かの返事次第で、 どこまで話していいものか、 それを測っちゃうんだよ. 癖かもね。 …シキコーで悩んでたのは俺じゃなくて…… みんなって感じだった…かな… 話を聞けば聞いただけ、 いろんなやつが何かを抱えてた…… 最初は俺も何かに悩んでたのかなって思ってた。 でも違った… 自分より他人を優先していたことに気づいたんだよね. 悩むならずっと誰かのことで、 俺は俺のために生きようとは、 してこなかった…… 」 あれ、今俺  ーーー…… サイコロ振ってない… 小さい時、自分で行き先を決めるのが嫌で、 適当に誰かに従うことで逃げたり… 思いついた遊び感覚で、 賭け事や自分の行き先を運にかけて、 自分の所為じゃなく勝手にコイツが決めたからって 言い逃れして生きてきた。 楽な方をとって、 自分というものを捨てて、 今までも、 これからも、 俺は誰かに従ってればいいんだって考えてた… 面倒になったら逃げて、 それで? …だから? … … … その先には、何もなかったのに… …結局得たものなんて人脈だけで、 …都合よく振り回される俺がいた… …本意じゃなくても嘘ついて、 …苦しくても我慢して、 それを楽だと勘違いして… ずっと首絞めてた… ”高校入ってからわがままになることも教わったんで” 急にコーヤンの嬉しそうな顔が浮かんだ、 我儘か… 俺、我儘なんか… 言ったことねぇな… 「今1番探してるもの…」 拳を下ろして自分の手を見つめた… 今からでも遅くない… ……、 捨てよう、 誰かの所為にして逃げる俺を … もう、逃げ道には… いかねぇ…… 「決めた… 今年は俺が俺のために、 誰かと関わったり、 先に進もうと思う… 優しいだけじゃ、 此処は埋まらない…」 自分の心臓辺りを指してハヤト先輩に目一杯笑いかけた… 声……出るか? …誰かの後ろにばっか隠れてた俺が… こんなこと…口にするなんて思いもしなかったよ… 「ハヤト先輩、 卒業前に俺と、 One on one してくれますか? …タイマン…張ってくんない?」 力試し… 過去の自分への、隠してきた気持ちの… 裏返し… 口に出したら、 恐怖心なんて何処にもなかった… “誰よりも1番がいい…” 負けず嫌いな俺だけが、そこに居た。 「お前がお前のために、 俺とけんかしてえんだったら、  いいよ、受けてやる。 誰かの答え聞いてから考えるんじゃなくて、 お前がしたいとおもったこと、 考えないでやれるようにしたらいい。 そういうことだろ?春輝。」 …俺が今考えてたことを口にするハヤト先輩は冬の日差しよりも輝いて見えた… 眩しいな…全部わかってんだな… …俺、自分の名前に“輝”ってついてるのに… …全然、足りてないって ハヤト先輩を見ていて思ってた… …こういう人になれたら、 …きっと誰もが名前を口にしてくれるように …なんのかな…… 「うん、そーいう事。 シンプルに強くなりてぇの。 …俺ね、1番になりたくないって思ってたのは 誰かのためになりたくなかっただけで… 弟でいなきゃいけないとか、 こうでなきゃいけないって、 誰かに言われるからそうやって思ってた。 …でも、今は… 単純に何処まで行けるのか知りたいんだよ、 俺自身が… ま、 今じゃなくていいよ。 だってバイクで帰れなくなったら嫌だし。」 さっきまでの不安は、 何処かに消え去っていた… 今なら、誰にも言えなかった話し… ハヤト先輩になら…できるかな… 「ハヤト先輩。 俺、チームを作るよ。 俺が信じるメンバーと俺が俺でいられる場所。 …誰かの居場所を作る… そこに相応しい人間になりてぇなぁ… って、思うんだ… …だから、 全力でぶつかってくんない? 手加減したら根に持つからね。」 自分自身、足掻いた結果。 いつの間にかついてきてくれる人間がいて、 それが嫌で仕方なかった事があった… 兄貴…夏月は群れることが嫌いで、 俺たちは俺たちだけでいいと、 唯一無二だった頃… 俺にとっては夏月がいたら、それでよかった。 今の俺は? 何でたくさんのやつと関わった? 英雄ごっこみたいな事してきたのは… 何でだったのか… …振り返れば、仲間が居て、 たくさんの思い出があって、 みんなが俺を心配していて、 支えようとしてくれていたのに… 踏み出す事を恐れていた、 全部俺が受け入れる事が怖かったから。 手を伸ばしたくせに、手を引っ込めて 伸ばされた手を掴まなかった… でも違う、 不恰好でも、不完全でもいいんだ…… 失敗しようが“俺は俺の為に”ありのままで居ればいい… そうすれば誰かを傷つける事も、 悲しませる事も、 不安にも、させねぇから… 今より強く ーーー… 「いいんじゃね? お前が考えて出した答えが合ってるかどうかは やってみなきゃわかんねえし。 お前がお前でいられる場所は、 お前にしか作れねえ。 それが誰かのためになるのは、 その次のことだし。 … 当たり前だろ、俺が手加減するとおもうかよ?」 ハヤト先輩の言葉が俺に沁みてくる。 全部を認めてくれる、 背中を押してくれる。 …否定はしない… 今の俺は間違ってないって、 肯定してくれてるようだった。 ……恋愛って…どうなんだろう…… 俺が今1番、感覚が鈍いところ… ハヤト先輩なら何か… 「…突然なんだけど…恋愛の話ってしてもいい?  ハヤト先輩は男女の友情ってありだと思う?」 少し間があってからだが、 ハヤト先輩が口を開いた… 「前に、アド先に言われたことがある。 男女間の大切な人間への気持ちが絶対に恋愛じゃなきゃいけないなんて馬鹿な話があってたまるかって。 誰かを思う気持ちの形が、 自分の思ったような形にならなくて、 相手をがっかりさせるのが 悲しくて苦しいから全部捨てちまおうじゃなくて、 いろんな形があっていいんだ、って言ってた。 男女の友情もあるだろ。 男と女だから友達になれねえなんてよくわかんねえし。 誰かをすきだっておもったら、 そんとき考えればいいんじゃね? それまでは好きも嫌いもないお前のままでよくね。 けんかのこと言ってんの? それともすきかどうかって話?」 ……俺のまま…? …キュッと拳を握った… 男であれ女であれ感覚の鈍った俺は… “好き”とか“愛してる”とか、誰にでも言える。 実際、誰でもいい… 気持ちがなくても、適当だった。 求められてるなら返せばいい。 そうやって生きてきた。 付き合うとかまで縛り付けることは、 しなかったけど… 好きって何なのか、全然わからない… 「んーーー 好きかどうか…かなぁ… 告白された時に答えられないのを伝えながらも… 待っていて欲しいって 卑怯かなぁって気がしてきてさ。 それで離れるならいいのかもしれないけど、 好意を持たれてる女の子に対してゆるゆるになりがちというか〜…うーん… これが俺にとって弱さになるなら、 いっそ全部辞めてしまうのもありなのかと思って… わかりずらい言い方でごめんね〜? ハヤト先輩は、 どこまでなら許せる? 触れるのさえアウト?」 わかっていた…嫌なやつだって。 期待させて誰かを繋ぎ止めようとしてることを 自分で理解していた。 関係を終わらせて断ち切る事に怖くなるから… 極端に嫌われたくない気持ちがあったから… 「今は答えられないけど、 まってて欲しいっておもうってことは、 そいつのことまあまあすきなんじゃねえの? 俺は待ってて欲しいとはおもわない。 いつまでかかるかわかんねえものに、 そんな期待させて待たせるのは、 そいつに悪いとおれはおもう。 どこまで許せるってなに?」 だよね、そうだと思う… …改めて考えてる答えを言われると苦しいな… 「うわぁ、 じゃあ俺ほとんどの女がみんな好きになっちゃうな… なるほどね、 そういうのって、 やっぱり期待させるよりは断るべきなのかなぁ… 好きって難しいように思うんだよね、 はっきりしないで曖昧にしてきたからさぁ〜… やっぱり悪いって思う人もいるか。 たとえば、ボディタッチかな。 ハヤト先輩は前に俺と握手してくれたじゃん? 同じこと女子に言われたら断る?」 「お前がむずかしく考えないで、 すきって言われてすきかもっておもうなら、 付き合ったりしねえのはなんで? すきってことに自信ねえから? … 握手?べつに断んねえけど。 なに、 お前はキスしてって言われたら キスしちゃうからどうしよう、 断ったほうがいいのかってこと?」 キスってハヤト先輩の口から出る事が、 意外に衝撃的だった… へぇ、そんなダイレクトに俺に質問すんのか… 遠慮しなくていいってこと? …じっと海を見つめて、 懐かしい記憶を思い出す… …そいつの為なら命をかけてもいいって… …それぐらい好きで… …怖がられても …突き放されても …好きになって欲しくて足掻いて 中学時代に恋に溺れてた… 俺は、その子しか居ないんだって思ってた…… 千雪が似てるなって… 最初は思ってた… はるくんって呼び方も、 雰囲気も似てた… また恋するのかも…とか、 思ってたけど、 でも、 海で俺の気持ちが一変する出来事があってから、 心の奥の方が苦しくて、 全ての気持ちに蓋をして、 俺は千雪に関心が無くなっていった… 必要とされれば助けたけど、 それ以上もそれ以下でもなくて… ただのその辺にいる女として見てた。 誰とも変わらない… …変わらなかった… アイツ以上は、多分…居ないんだって… どっかでわかってるのに探してる自分がいる事… 「あぁ…… 話してなかったか… まぁ、あんまり話すようなことじゃねぇんだけど… 俺さ、好きだった女の子…… 目の前で交通事故にあって… ちょっとトラウマなんだよね。 みんないずれ死ぬのをわかってんのに、 ずっと頭の中でそれがループしてんの。 …しかも俺のせい、全部俺。 その場で庇ったつもりが、 助かったのが俺だけで… …俺が死ねばよかったのにって、 後悔が抜けなくて…… そのせいで、 前に進まねぇの… 多分一生、 俺自身が恋愛に対して進むことをやめちゃってる… わかってんのに全部曖昧にしちゃってんだよ。 いつかは、 なんとかなるのかなって期待してんのかなぁ… 馬鹿だよなぁ… だから、辞めるタイミング今かなって思ってさ… 変わろうとしてるなら、 変えちゃうべきかなってさ。」 左手の指輪に触れた… 唯一の形見…捨てようとしても捨てきれないもの… 未練ばっかで死んだやつのことずっと想い続けてんの…笑われるかな… ハヤト先輩は言葉を選ぼうとしているのか、何かを考えてるのか「そっか」とだけ言って 静かに海を見て俺の言葉を待ってるような感じだったから立て続けに話す。 「んーーー… 相手がいいなら、 キスでもするね… 別に、こだわってないからさ… なんだろ… でもそこに結局、 好きだって感情が一回も芽生えたことがないんだよなぁ…」 本音が出てから自分の言葉に苦しくなる。 本当に好きになれるって期待して嘘ついて… 何とかしたかっただけなのに、 きっと悔しかったんだ… アイツを守れなかったことに囚われてる… わかってんのに止められないんだよ… 「…そっか。 でも、いくらお前のことをすきなやつが出てきても、無理して恋愛することねえんだよ。 それでもこれから先、 お前がどうしてもすきだっておもったら、 そん時決めりゃいいんじゃね? すきってやめようとしてやめれるものでもねえだろ。 期待すんのもそう。 なるようにしかなんねえよ結局。 … じゃあすきだと思わないやつにそういうことするのをやめてみたらわかるんじゃねえの? すげーすきだーっておもったらすりゃいい。」 ……やめてみる…か……、出来るのか? …求められたら揺らぐとしか思えなかった… 求めるように促してしまう自分しか …イメージが出来ない… ……でもさっき言っていた 俺が俺のために生きるとするなら… 探し続けることは、 やめられない… きっと… 「やめてみたら、… 大事だって分かるかもしれないってことか… …そっか… …確かに全員平等にし過ぎたのかも… ちょっと距離とってみようかな…」 答えが出ている人には、 どっかで折り合いつけるとしても… 今後そこを変えていけるんだろうか… まだ未知過ぎて、 話を濁すことしか出来なくて、 「ハヤト先輩は、好きな人いないの〜?♡ あんまり女の子とはいないよね……?」 なんて、女子トークみたいに話しかけてみる。 割とヤケクソな質問だった。 話を切り替えたいだけの質問。 「うーん、俺も俺でけっこういろいろ考えてるからな。すきってむずいよな。」 …は??…返事に困惑しそうになった、 …考えてんだ… …そういう事も… あんまりイメージ無かったんだけど、 話してみるもんだな… なんて、じっとハヤト先輩を見つめていると急に目があって… 「一回やめたらわかりやすいんじゃねとおもっただけで、責任は取んねえぞ。 俺が女だったら、誰とでもキスしてる男すきになったらしんどいきがする。」 …??! ハヤト先輩の思わぬ返答にガチで笑った。 「ウケるんだけど、 ハヤト先輩が責任とるって、 俺の嫁に来るの? まって、めちゃくちゃ笑うんだけど!!!!? いーよ別に、 遅かれ早かれそうするしかないとは思ってたし、 やっぱり人と話すのはいいなぁーーー …というか、ハヤト先輩と話すの、 なんか好きかも♡」 あ、こういうとこか、 つい“好き”とか言っちゃう俺の悪いとこ…、 そう、遅かれ早かれ… いつかの本音を話す時が来るだろうから… 辞めだーーー… もう繕うのは、終わりにしよう… 1人ずつ答えを出していけばいい… 「でもなんだろ、 スッキリするっていうの? 海みたいだよね… 投げたもの深いとこに沈めてくれそう… やっぱり …俺は自分が平気だって思っても 好きだって思ってる側からしたらしんどいよな… なんかね、こいつが好きなんだー みたいな恋する男子に話を聞いたら、 ”誰よりもそいつを優先したいって守りたいって思ったら恋なんじゃないかって言われたんだけど…” ピンと来ないから、 やっぱり好きとか難しいよね… ハヤト先輩モテそう〜♡」 虔太郎に言われた事だった… もう過去に一回それを感じていたからこそ… その時の言葉は重く感じたし、 今口にしてみるとしっくりくる… 俺やっぱり、過去に囚われてんだな… 「ちげえわ、 お前が女子にキレられても俺は責任とんねーぞってこと。 俺はな。 俺が女だったら春輝みてえなやつは すきにならないようにする。 … べつにモテねえよ。 うーん、とにかくすきになったら そいつのこと考えちゃうんじゃねえの? 考える時間が多かったら、 すきなのかもっておもっていいんじゃね。」 そう、俺みたいなやつを好きになる事が、 まず間違いなんじゃないかなって… 自分でも思ってた… 好きって気持ちを否定するのは良くないけど、 きっと苦しむのは俺じゃない… 優しくしようとしても、 いや、優しくした所で… 最後に泣かせるって分かりながら… やってんだから。 女子にキレられる…か… 過去にあったな… ナイフ持ち込まれて殺してやるって言われても、 全く怖く無かったし… “じゃあオマエを殺してやろうか” って平気でやり返したら泣いて逃げられた… 女子に力で負けた事は無い… 割と関係なんて自然消滅も多いし… よくよく考えたら、取っ替え引っ替え… 付き合うわけでも無いし全員泣かせてきてるな… 「…あぁ、それは平気… どれだけ女に狂気を振るわれようが毒を盛られようが、俺は死ねない。 …死のうとしたって、 …死ねない。」 誰かに殺されて死ぬ事がまず納得できない自分もいるけど… そうじゃなくても組の1人が俺を監視してる… いつも… すぐさま助けられるか止められるか… 俺の死は遠くにあるんだと思う。 親父がいる限り… ……そうやってしてきたから、 みんな俺を嫌いになってんのかな…… まぁ、なるのか… 普通。 「……じゃあ、好きになってもらえるように頑張っちゃおう♡…どう?…可愛い?」 なんて、可愛げに首を傾げた後、 真面目なトーンに戻しながら…本音を吐いた… 「ってのはジョークだけど、 誰からでも何かしら認めてもらえるような人間にはなりたいね…… …… 俺は…重いのかも… はじめて好きだなってなったやつのことは、 今でも考えるし、本気で好きだなぁってなるし。 つまりは、そういうことだよね… 黄泉の国までは独り身かなぁ〜… っても、 結局付き合うまでにはいけなかったから… 向こうでアイツが結ばれてたら 一生俺の気持ちは消化されないのかも。 まぁ、それだけ向こうで待たせてんだから… 仕方ねぇか…」 これは本音だ… それだけアイツが好きだった事… 俺にはずっと否定できなかったから… 「まだ今もすきってことだろ。 だから「なるようになる」しかねえんだよ、 無理に誰かをすきになることもしなくていいし、 忘れられねえんだからしゃあねえ。」 「……うん、認める。 何回だって手放そうとしたのに 自分で取り返しに行っちゃうんだよ、 捨てた思い出さえさ… …ぁーーー…怠いなぁ…」 認めてみると腑に落ちる感覚… …もう誰も好きになれなそうな気がしてくる… 不意に煙草を吸いながらため息が漏れた… 「俺がハヤト先輩とタイマンするのは…秘密ね…? ずっとそういうの避けてきたから。 まぁ、誰かに話すタイプのイメージは無いけど… ギャラリーとかは嫌だし…」 「別にだれかに言ったりしねえよ。 まあお前がやりたくなったら来いってことで。」 海に来て喋るだけしゃべって終わりになりそうだな… 凄く楽しかった… 気持ちがスッキリした… 答え合わせをしたような感覚の後、 急に腹が減ってくる。 「うっ…寒くなってきたぁ…こんな時間か…… ちょっとこっから飛ばして行ったら美味いラーメン屋があんの! マジでうまいの保証するから付き合って♡ 奢るし… 話聞いてくれたお礼。」 「わかった、ラーメンな。運転よろしく。」 俺に振り回されてもついてきてくれる 優しい先輩… …どんな喧嘩すんだろうな… 「よっし、じゃあ行きますか!  今日はありがとうね! 新年早々、ついてるなぁ〜♡ ちょっと元気出過ぎちゃって気持ちがガソリン満タンだから、しっかり捕まっててね♡」 ワクワクしている… 不思議な気持ちだ… 「俺あんま話うまくねえけど、 お前がすっきりしたならよかったわ。 なんだよ飛ばすなよ寒いから」 そんな俺を見てハヤト先輩は笑っていた。 …こんな寒い日なのに気持ちがあったかいよ… 「はーい♡…飛ばしまーす♡」 エンジンを蒸して音を立て、 嬉しそうに加速しながらラーメン屋に向かって 走り出した ーーー… …   2021年2月22日     ーーー この日は、俺の母親の命日だった… 突きつけられた現実、 手紙に書いてあった、 “本当は俺が兄なのに弟と偽ってきた事” “体に疾患がある事” “目が悪いのも、いつか病気で死んでしまうかもしれない事も” “全部を突きつけられて俺が俺の為に生きる気力を失った日ーーー” 花束を抱えて空を見上げた、 既に綺麗に整えられている墓を見て、 親父なのか夏月がやったのか… 鷹左右組の奴らに鉢合わせしなくてよかったな、 なんて考えていた… まぁどうせ…監視はされているだろうけど… 花束をドサッと置き捨て、 手も合わさずに歩き出した… 死にたいと願う絢世を救おうとした自分と、 気が動転して苦しんでいた封牙と、 最近あったことを振り返っていた…… 誰だって痛みを持っている… これから自分がどうしていきたいのか… どうやって生きていくのか… 俺は俺のエゴで2人を引き入れた… 近くチームを作るとするなら、 出来る事なら、 “変わりたい”と願う奴らと一緒に居たかったから。 無理矢理に引き入れたかった訳じゃない… そこに理由がある。 “俺が必要としていたから” まぁ、 きっとこの気持ちも秘めて直接話す事は無いんだろうけどな…… それでいい… 俺が俺でいられる場所を、 本音で生きていける場所を、 ただそれだけを、創ればいい…… でも足りない、 決定的に今必要なもの… 携帯を開いて“隼”と書いてあるLINEページを開く… 静かな墓地でタップ音が響く… ”ハヤト先輩〜?今日忙しい〜?何してるの?” すぐに返事は来ないだろうと携帯を閉じようとした瞬間にピコッと軽快な音がする。 ”学校。予定はない。” …わかってん…のかな… きっとわかってんだろうな… 心臓の音が早まる… ”約束してたからさ、 今日、タイマン…受けてくれる?” ”おう。 覚悟できた?” 「覚悟」その言葉を口にする。 変えたかったんだ… 今日という日を否定したい… 自分が自分を辞めたあの日だから… … “出来たよ… やらなきゃならない時かなって思ってさ。 …ちょっとだけ俺の話も聞いてくれる? 夕方、…前に夜来てくれた場所で待ってんね。” ”わかった。” ”ありがと、 学校に行ってないから適当な時間で連絡頂戴。” ーーー 夜、ハヤト先輩と密会した空き地がある… 廃材だらけで、奥に工場があって… どうやら今は使われていない。 廃材をうまくすり抜け、 目立つ所… 危なっかしいだろうが、 廃材の上に座り込んだ… あの日、 あの日のハヤト先輩は…凄く真剣な声だった… “” なあ。俺頭よくねえから、わかんねえけど。 お前、自分なんかどうなってもいいっておもってる? いままでいろんなことあって、 お前も京極も、 誰かを助けようとしてがんばってるのはわかる。 でも、たとえば薬の件が落ち着いてさ、 でもそんときお前がぼろぼろになってて、 それで良かったな、 終わったななんて言い切れねえよ。 他人のために生きろなんて無責任なことは言わねえし、 俺は説教する気も、お前が悪いとも言わねえ。 でも、お前がいねえと悲しむやつがいるって、 ちゃんとわかってたほうがいい。 考えることばっかでぜんぶやめてえなっておもうかもしれねえけど、 こうやって協力してほしいときはもっと言っていいし、 考えてること話して整理できんなら、 話した方がいい。 俺もひとりでいい、 全部やめてえなっておもってたことあるけど、 やっぱそうじゃねえんだよな。 春輝。 お前はシキコーで、 俺の後輩で、 こうやって話してる。 だから、俺とお前ももう無関係じゃねえんだ。 お前がひとりで持てねえ荷物でも、 いっしょに持ってくれって言ってみたら良い。 今も、言えたじゃん。 “” 俺がハヤト先輩に助けて欲しいと声に出した時… 言われた事… ……あの時まだ気持ちが不安定で、 …もっと頼りたかったのに頼りきれてなかった… 自分なんか…どうでもいい… まるで見透かされてるかのように言われた言葉。 …そう、どうでもよかったんだ… どうでもいいけど、 誰にも嫌われたくない… 否定されたくない… 自分が自分を演じることに慣れていた… …シキコーに居たら、  それがもっと鮮明になっていった … 誰も踏み込んで欲しくない… 俺の奥深く… この気持ちに… 気付かれたくない… “全員、死ねばいいのに” そんな風に思っていた時期があった。 …全てを否定したくなるような声… この衝動はアイツが死んだ時から消えない。 この気持ちをどうにか紛らわせる為に、 必死になってた…… ふと廃材に寝っ転がって空を見上げる、 少し曇ってきたからか、 空気が冷たい… 俺は誰かに必要とされる前に、    俺が俺を必要としなきゃいけないんだって… ハヤト先輩の言葉で やっと目が覚めたような気持ちになっていた… あの夜に話してくれた事も… 海に行った日も… 今日という日も… 俺は確実に… 少しずつ…変わっていってる… …… 目を瞑ると夢を見ていた  … … アイツが何かを言ってる … … 聞こえないな … … もっと近くに、いかないと … “来ないで” … 口元の動きでは、そう言って必死に叫んでるように見えた … … 逝きたい… “生きて” … 嫌だ … “駄目だよ、はるくんは ーーー    ” 「………麗奈?」 携帯が震えてピコッと可愛い音が聞こえた… ”もういる?” ハヤト先輩からのメッセージだった、 ゆっくり体を起こした自分の目から涙が出た…そう最後アイツ…死ぬ前に… “私の分まで生きて” って言ってたんだったな… 昔の記憶を消したくて思い出さないようにしてた… ゆかりが必死に俺と麗奈の身体を手当てして 泣きながら、叫びながら… 頭が痛くてあんまり記憶にないけど… ただそう言われた事だけは、 頭の片隅から消えない… 生きて… 生きてどうしたい… 俺は、アイツの分も… 生きて…どうするんだ? “居るよ〜? 学校終わった?” ”おう。もう着く” ”はーい” もうすぐ、ハヤト先輩が来る… 俺は生きて強くなって… …全員救いたい… …困ってるやつ、俺を必要とするやつ… … ずっとやってきた事だったけど… もう二度と 誰かの手で誰かが死ぬとこを見たくない… 自殺も、他殺も ーーーーーー もう、うんざりだ… だから… 「おす。途中で抜けて来た」 ぼんやりと考え事をしていると数分後、 いつもと変わらない口ぶりでハヤト先輩が現れた… 「ハヤト先輩だぁ〜抜けてきたの? 3年生はもう緩いのかなその辺… 元々シキコーが緩いのかなぁ… 先生はみんなうるさいイメージだったけど… …今日公園でずっとダラけちゃった…〜… お爺ちゃん気分。」 廃材から降りながらゆっくりとハヤト先輩に近づいて行く… 眠ったせいか、ちょっと怠い… 「もともとこんなんじゃね?俺はずっとそうだったけど。 俺とタイマンするっつってんのにだらけてていいのかよ?」 ダラけてないよ…ずっと待ってた… 考えてた… 今日… ハヤト先輩の事… これからの事… …俺という存在の意味を… 「……うん、俺はダラけてる方がいいんだよね… なんだろう…… どうしようもなく、 普段考え過ぎてるのかもしれないから? …ハヤト先輩にも言われたけど… 考え過ぎっていうか… …何にも考え無い方がいいのかなって思ってさ〜…… でも不思議だね、… ハヤト先輩見てたらいろいろまた考えちゃうんだよね? 誰か止めてくれないかなぁ…〜 ってたまに思うよ。」 この先止まることなんて無い。 だって、これが俺だから。 もう答えは出てる。 「……消えないんだよなぁ、 俺なんか死んじゃえばよかったのにさって… 一回思ってから、 ずっとこの気持ちは消えないから。 そろそろ刺激が必要かと思って♡ でも喧嘩好きって訳じゃ無いのに 今日が楽しみで仕方なかったんだよね、 何か変わるきっかけが欲しいだけなのかも……… すげぇ、ムカつく事ばっかだったから… 単純に…… 消化したいだけかな。 利用してるだけだったらごめんね?」 俺の言葉を黙って聞いてる ハヤト先輩は何を思ってんだろ… 「ちょっとこの先行ったとこの方が目立たないからついてきて〜罠とかじゃ無いから安心してよ♡」 ひらひらと手を振りながら笑っている俺を見て、真剣な表情を崩さずに 「はっ、罠だとはおもってねえよ。 つーことは、 殴り合ってスッキリしてえってことだろ? 付き合ってやるよ。 それからまた考えりゃいい。」 もう見透かされてんだろうな…… 「ハヤト先輩って真っ直ぐだなぁ…  悪い人にもついていっちゃいそう …俺が悪い人だったらどーすんだよ〜〜… いきなり集団リンチされても 勝てるよっみたいな自信??」 ゆっくりと工場内に足を踏み入れる。 高揚感が堪らなくて体が熱くなっていく。 「…まぁ、ハヤト先輩ならわかってくれそうだし理由問い正さないでしょ?? …だから、ただ… やり合ってみたいって思ったのが今日だった… ただそれだけ。 なんでもない日だから、 意味ある日にしたかっただけ…かな」 何でもない日に、今日を選ぶわけが無い… 今日が俺にとっての1番嫌いな日だから… だから今日を塗り替えたい… 何かを察したのか、少し不思議そうな顔をしてハヤト先輩が工場内で立ち止まった。 「やべえやつなら警戒するに決まってんだろ。 お前だからだよ。 やり合ってみてえが理由でいいし、 今日がお前のけじめなら付き合ってやる。」 “ケジメ”って、わかってんじゃん … 「…俺は、やべぇ奴には入ってないんだ? …ありがとう…… … …ケジメかぁ…そうだね、 …人間って苦しいくせに頑張るじゃん? どうしようもなくて踠いてみたりとかさ… 本当は苦しいくせに、 好きな奴にいい顔して我慢したり… 向き合いたいけど、 素直になれなかったり。 普段仲良すぎたら、 近づきすぎて拗れたりなんて… 面倒くさいよね。 全部… …でも全部ね… 嫌いだけど、 好きなんだよね… …俺は俺の正義感で正そうとしてて、 そうやって生きていいって ハヤト先輩と話してて思ったから、 これから俺自身がブレないように… そうだね、ケジメかな…」 俺もハヤト先輩から少し離れた工場内で立ち止まって後ろを振り向いた… …真っ直ぐに… こっちを見てくるハヤト先輩はいつもより強く俺を睨む… ーーー 気迫… 「ここが終わりで、始まりにしたいなぁ…」 笑顔のまま俺がいうと顔色ひとつ変えずに 「お前は名前も知ってるし、 飯食ったことあるしな。 そういうのしねえっておもってるから。 …したいなあ、じゃなくて、 すりゃいいんだよ。 来いよ春輝。」 “来いよ”なんて言われたことがなくて嬉しかったのかゾクッと身震いする感覚で口元がニヤける… 「それも…そっか…… じゃあ手加減しないでね? 本気でやってくれないと、 怨んじゃうから♡」 「タイマンはろうっつってくる奴に、 手加減なんざしねえよ。」 自分の目のハンデに手加減される事が1番嫌で… ハヤト先輩には話してないけど… つい…何度も何度も言ってしまう… 本気で、やりあいたいからーーー ーーー!!! 「じゃあ、遠慮なくッ」 普段と変わらず飛び蹴りから入るとハヤト先輩は逃げずに受け身を取り腕で俺を押し除けた。 成る程、 あんまり動かねぇタイプか? ハヤト先輩の方が俺より若干背が低いのもあって、 蹴りが上手く決めやすいかと思ったが、… これは長くなりそうだな… そんなことを考えてると 一瞬で素早く俺に向かって 真っ直ぐに拳を奮って来るので上手く受け流して右側に避けた… 右には来て欲しく無いと思っての動きだったが、 そんなことを考えてる余裕が無い程に次の技が飛んでくる… ーーーマジで容赦ねぇな!? 思わず声に出しそうになったがそんな隙も無い… あぁ、これが門脇隼人なのか… クッソ、ムカつく… 反撃に出ようと身を低くした瞬間、右側に来られて ガッとハヤト先輩の蹴りが俺の頭に直撃した… サングラス…割れたんだけど… ぼんやりする視界、 口の中が切れたのか血の味がする… これじゃ、 強さを測ってる余裕なんて無い… いつもみたいに80%くらいの気持ちで挑んでたら駄目じゃん… 集中しろ… 「イテェよ…本当さ…」 立ち上がって向き直り駆け抜ける、 あぁもう… 本気、出してやるよ… ハヤト先輩が受け身を取る瞬間ワザと前から来るように見せかけ背後に回って蹴り飛ばす 当たった事に俺が気を抜くと、 直ぐ体制を整えて向かって来た… 効いてねぇなぁ!! …辛うじてハヤト先輩の攻撃を受け流して不意に目につく… 笑ってる… 見た事ない顔してる… 純粋にケンカを楽しんでる… それに気づいて俺まで口元が緩んだ。 拳を奮った瞬間… お互いの顔面に当たる…… …と思いきや、 少し俺がタッパがあったからか 気持ち届かなかったハヤト先輩が掴みかかるように再び殴りかかって来やがった… そんな派手にパワープレイしてくるやつを見た事がなく不意の一撃を食らう…… あぁ… 痛みよりも… 楽しさが優ってるのか、 普段なら喋ったり時間を持たせたり… 呼吸を整えるのに… 全然そんな状況じゃない… …… 「「おもしれぇ」」 …ハヤト先輩と2人して言葉が被った… ちょっと息を整えるつもりで吐き出した一言… 度々思ってることを見透かされた時も思ったけど、 すっげぇ今楽しいよ… ハヤト先輩も同じ気持ちか… それ以降は何も言葉は交わさなかった、 やったらやり返されるを2人して繰り返し時間なんて忘れていた… でも、流石に苦しい …… かなり長い時間経ったような気がしていた…… 途中から、 何かに気づいたかのように… ハヤト先輩は右ばかり狙ってくる。 そうなるんじゃないかと予測して、 右側も直感で動いてんのに全然当たんねぇ… 速さもパワーもある挙句に、 持久力… 俺が1番嫌いな長期戦… バレてんだろうな、 右側弱いの… 右目の視力を喪失してることに対しての悔しさがハンパなかった… コイツが見えてれば… もっと互角にやりあえるッーーー… また、右…かよ… 限界だったのか右側にすり抜けていく ハヤト先輩に視界が追いつけず振り向きざまの顔面にストレートが決まった。 …真っ暗   ーーー 体も痛いし、 世界が真っ暗だった … あぁ、見えなくなったら… こんな世界なのか… 嫌だなぁ… 本当に…さ…… 「見えねぇーーー!!!!」 思わず叫んだ… 悔しいじゃん… こんな終わり方… ふざけんなよ…… 「……うぇ〜…疲れた。 …俺、負けた事ないのに、 …もう立ちたくねぇや…… ハヤト先輩、助けてぇ〜〜…」 急に気持ちがストンッと落ちる… そっか… 視界が鮮明になると肩で息をしてるハヤト先輩が寝っ転がってる俺を見下ろしていた。 「助けてってなんだ …スッキリしたかよ?」 笑いながら隣にしゃがみ込んで話しかけてくる… スッキリ…か……ーーー 「……あーーーー…話していいかな… … つか、 …スッキリしねぇよ!!! 負けた奴がスッキリはしねぇよなぁ?!! … …ハヤト先輩手加減してくれねぇんだもん…… …気持ちは、良かったけどね…」 手加減して欲しくない癖にごねた、 マジで容赦ない事に嬉しかったのと、 悔しかったのと… いろんな感情でいっぱいいっぱいで、 気持ちを繕う事が出来なかった。 悔しいよーーー… 「負けたらくやしいけど、 本気でけんかしたらスッキリするじゃん。」 笑いながら優しく言ってくれるその言葉、 わかってるよ、わかってんだ… 「……普通は、そうなんだろうけど… 俺右目… 失明してんだよねぇ〜…… …コイツのせいで… キツイ場面たくさんあったから、、、 スッキリしないんだよなぁ。 ……あー…ムカつく… 頭いてぇーーー、 暫く寝ようかなぁ… せめて、ハヤト先輩の上着置いてってよ〜 …夜まだ寒かったら俺死んじゃうから…」 ふざけてみるけど顔が笑えない… 人前で泣きたくなったの… 初めてなんじゃねぇかな… こんな…目じゃなければ… もっと強かったのか? ……俺、弱いのか? 「ああ、…見えねえのか。 けんかしてたら、 そっちの反応遅れるのは見ててわかった それでもお前強えから、 すげえカバーできてるとおもうけど。 …治んねえやつ? ……はあ?…ここで寝るなよばか。」 寝っ転がった俺にトンッと軽く触れてくる… …動きたくない… …強い……? 強えって…言ってくれた? ……自信持っていいのか…… 少し気持ちが落ち着いてくる… 「……やっぱり? …見えなくなってから、 どんどん反応遅くなってんだよなぁ… 必死にカバーするために鍛えたりしても、 いざ対面したらこうなるかって 今日わかったよ… ありがとね。」 ゆっくり起き上がり上半身は起こせた… さっきよりは気持ちマシになったけど… 身体イテェなぁ… ………治る…かもしれない………んだよな… これは、誰にもまだ…言ってない事…… 「…外国行けば、治るかもしんない……… でも、 失敗したら全く見えなくなる可能性もあるから… 行きたくなくて、 行ってない… 困ったね……」 思わず声が小さくなって、 弱音を吐く自分が嫌になって… 急にテンションを変えた。 「……ばかかぁ…… 俺意外と頭いいし成績もそれなりに点数高めでキダセンに褒められたから、 頭脳勝負ならハヤト先輩に勝てるかなぁ♡」 …駄目だ、いま明るく振る舞うと余計に胸が苦しい… 喧嘩より今の俺の方が何倍も痛いじゃん。 「……ちょっと休んだら帰るよ…?多分…… あれ?馬鹿は風邪ひかないんだっけー? …じゃあバカの方がいっか…」 暗くなっていく声…… 気持ちで… 負けるなよ… 「…お前、負けず嫌いだよなあ。 成績の話してねえし… …だから、 いつかお前が目が見えないことに腹立って、 ぜってー負けねえって覚悟できたら、 外国行けばいいんじゃね。 完全に見えなくなるかもしれねえのは、 こわい。 でも、治るかもしれねーっておもって、 諦められねえんだろ。 いつかお前自身が決めれる日がきたら、 その時考えれば? お前はたぶん、 頭いいし負けず嫌いだから、 先のことも自分のことも、 いっぱい考えるんだろうな。」 ……うわ…… 思わず泣きそうになるのを堪えたくて、 拳を額に軽く当てて無理矢理泣かないように抑えた 「…あぁ、そうだね… 負けるのって好きじゃない… 生まれた時から負けみたいな言い方されてきたから… そうなっちゃったのかもね… じゃあ、目が治ったら、 ハヤト先輩の前にもう一度現れてリベンジしていい? …完全な俺と勝負してよ。 絶対、リベンジは勝つよ。 俺強いから。」 完全に腹の底から気持ちを吐き出した気がする。 泣いてなんかいられねぇ… 声も震えなかった… ハッキリと言い切った… “俺は強い” 「負けず嫌いってのは俺から見ればすげえいいことだからな。 お前はそのままでいいよ。 はは、いいね、 俺も完全なお前とけんかしてみてえわ。 …春輝、負けんなよ。 けんかだけじゃねえ、これから先、 負けても勝つまでやりゃ勝ちなんだよ。」 今の俺を肯定したハヤト先輩の言葉は、 素の俺が1番いいって認めてくれたって事か… それが今まで生きて来た中で、 何よりも嬉しい言葉だった。 「ハヤト先輩のお墨付きだねぇ… まだ、強くなるよ俺は… ならなきゃいけない理由と、 なりたい自分がいるなら、 それだけでいいよね。 …言われなくても負けねぇよ… それでいつかハヤト先輩越えて、 誰よりも上にいるから… ちゃんと、見ててよね… ってか、 俺がリベンジする前に ハヤト先輩が誰かに負けたら、 ゆるさねぇ…… 幽霊になって、憑くよ?」 やっと目が合わせられた… 2人とも傷だらけだな… …でも、笑ってた。 ハヤト先輩、すげぇ楽しそうじゃん… 「理由も、目標もあんなら、 ちゃんと立ってるってことだから。 つえーやつは、けんかだけじゃねえ、 ちゃんと覚悟があるやつもつええ。 春輝はそうだろ。 負けねえよ。 化けて出られんのこえーし。」 ………ははっ…幽霊嫌いなのかな? 思わず心の中で笑ってしまった… …負けねぇ… 自分にも、 他人にも、 俺は絶対負けねぇ… ハヤト先輩の言葉を信じよう…… 俺は強いから… 「…もう日が暮れちゃったね… 俺暫くここで休むから、 気にしなくて平気だよぉ? … …またラーメン食べ行こ…?」 と、ハヤト先輩の方に振り向こうかと思った瞬間に、ふわっと肩に柔らかい布が触れた… 「上着。 今度会った時でいいから着とけ。 ラーメンうまいとこ連れてけよ。 またな春輝。」 ーーーーーー…!! 「ん、ありがと…またね…」 ハヤト先輩の歩き去っていく音が工場内に響く… 動きが少しゆっくりで引きずるような音… 負けたけど結構ダメージ与えられたんだな… きっと俺の最後の言葉は聞こえてなかったと思うけど… 「クッソ……」 何で最後に上着置いていくかなぁ… バレてんのかな… 溢れてくる涙が止まらなかった。 苦しい… 悔しい… かけられた上着をキュッと握った… …… 止まれ… 止まれよ… …強いんじゃねぇのかよ …         鷹左右 春輝  …… 思わず自分の顔を叩く。 強くなるんだよ、 俺は…… 誰よりも、 …それで… 門脇隼人を越えてやる ーーー …かけられた上着に袖を通した… …丈が短い… 身長があるからって強いとは限らねぇんだよな… ゆっくり立ち上がり、 フラつきながら外に出る…… 綺麗な夜空と少し暖かい風が頬を撫でた… …あの海の日の風よりも暖かい… ハヤト先輩に 次に会うとしたら… リベンジする時  …… か  … それまでは、 ゼッテェ上着…返えさねぇから… まるで子供のような我儘を内に秘めて、 俺はその場から立ち去った…… SKKN END
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