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豆腐屋から坂を登る途中にある神社のわき道を抜けると小さな空き地があった。
その空き地は誰かが手入れしているのか雑草はあまり生えていなかったが、真ん中には蓋の閉まっている古びた井戸がある。
四方八方が高いマンションで囲まれたその場所は日も当たらずジメジメしていて、決して気持ちの良い空間とは言えず、むしろ人が立ち入るのを拒んでいる感じだった。
「なぁ、悠人やっぱりやめないか? なんか気持ち悪くね?この場所」
と寛太が俺の耳もとで囁いた。
「はぁ?びびってんの?ださっ」
と鼻で笑ったら、寛太は眉間に皺を寄せて俺を睨んだ。
「ぜっ、んっ、ぜっ、んっ、怖くねーーし!!」
寛太はズカズカと足を踏み鳴らしながら空き地に入って行くとくるりと振り返り、深海魚みたいな顔をした。
俺らはそこでサッカーのパスの練習をしたりリフティングの回数を競いながら遊んでいた。
真ん中に井戸が若干邪魔に感じたけど2人で練習するには大きな問題にはならなかった。
寛太のリフティングが丁度44回をカウントした時、膝に当たったボールが勢いよく井戸に向かって飛んで行った。
「あーーーーっ!!」
俺らの叫び声は何のストッパーになる事もなく、ボールは古びた蓋を突き破って井戸の中へと落ちていってしまった。
「嘘だろ……。買ってもらったばっかりなのに……」
寛太は頭を抱えてその場でうずくまった。
「とりあえず中を見てみようぜ、もしかしたら…取れるかもしれないし…」
俺の声は小さかった。
だって心の中では多分…いや99.9999%無理だと思っていたんだ。
俺らはとりあえず井戸の蓋をずらす事にした。蓋と言っても薄っぺたいベニア板一枚の簡素なものだ。
「せーの!」
俺と悠人はお互い向き合う様に板を持ち、声をあわせて持ち上げようとした。
でもその板は劣化していて崩れるように真っ二つに割れ、井戸の中へと落ちていった。
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