空き地

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それは声を上げる間もない程一瞬の出来事だった。 ボロボロのコルクの様な触感の小さな板の残骸だけが掌に残っている。 蓋の取れた井戸は大きな口を開けて俺らも飲み込んでしまいそうな不気味さがあった。 思わず俺はゴクリと唾を飲み込んだ。 寛太の喉からも「キュィッ」と変な音が聞こえた。 俺らは顔を合わせ頷き合うと、ゆっくり井戸の中を覗き込んだ。 その瞬間、僅かな希望はハッキリとした絶望で打ち消された。 井戸の中はボールが取れるどころか底など見えない真っ暗闇で、まるであの世へ繋がっているかの様だったから。 「俺のボーーールっ!!」 寛太が井戸の穴に向かって泣き叫んだ。 井戸の穴の中で寛太の声が反響して響き渡る。 「ボーーール…ボーール…ルーー…ルーー…金のボーール」 ん!? 「何か最後変じゃなかったか?」 俺は悠人の顔を見てそう言ったけど、悠人は絶望に打ちひしがれていて気が付いていない様だった。 俺はもう一度叫んでみた。 「ボーーール!!」 その声はさっきの様に井戸の暗闇に響き渡って行く。 「ボーール…ボーール…金のボーール、銀のボーール」 今度は寛太にも聞こえたようで目がこぼれ落ちそうな程見開いている。 「なぁ、この中に誰かいるのかな…」 俺は井戸を見つめながら寛太の側に近づいた。 「怖いこと言うなよ。こんな所に人がいる訳ないだろ」 震えた声で寛太も俺に近づいた。 「でもさぁ、声聞こえたじゃん」 寛太は井戸に釘付けで返事をしない。 「もしかしたらさぁ、落ちゃって助けを待ってるのかもしれない…よ?」 本当は人が落ちてるなんて思えなかった。でも、そしたら、人じゃないとしたら…。 俺は手の平を固く握り締め直した。 「誰かいるんですかぁー!」 今まで生きてきた11年間の中で1番の勇気を振り絞って井戸に向かって叫んだ。 返事さえ無ければ俺たちの聞き違いと分かる。 きっと間違いだ。聞き間違いをしたんだ。
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