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井戸
「落としたのは金のボールか〜い?銀のボールか〜い?」
聞き違いなんかじゃなかった。
「ヒィ〜ッ」
寛太は変な悲鳴をあげて尻もちをついた。
「金のボールか〜い? 銀のボールか〜い?」
今度は勝手に井戸から声がして俺は怖くてすぐにでも逃げ出したかった。でも隣で動けなくなっている寛太が目に入ったら俺だけ逃げるなんて出来ない。だって俺と寛太は親友なんだ。
俺は寛太の肩を力強く掴んでぴっちり閉まっている喉をこじ開ける様に声を出した。
「ふ、ふ、フツーの、普通のボールだよ!」
「しょーうじーきーもーのー」
エコーのかかった声が井戸の中から聞こえたと同時にボールがポップコーンみたいに弾けて出てきた。
出てきたボールは地面に3バウンドした後、俺らの所まで転がってきて目の前でピタリと止まった。
「寛太のボール…」
「う…ん…」
悠人は近くに落ちてた小枝を手にとりボールを突いた。ボールは向きを変えると『KANTA』と汚い文字を俺らの方に向けた。
寛太は自分のボールだと確信すると恐る恐る手を伸ばし、ボールを手に取り大事そうに胸に抱きしめた。
「良かったー」
俺らは抱き合って喜びを共有したけど、すぐに視線は井戸へと向けられた。
「やっぱ人がいるんじゃね?」
「人かなぁ?」
「人じゃなかったら何なんだよ!」
「分かんないけど、とりあえず俺のボールを出してくれたしさぁ、お礼位言わなきゃだよね?」
「そうだな、ボール出してくれたって事は多分親切な奴なんだよ。もし人じゃなかったとしても…。俺は人だと思うけど」
井戸に声が届かないように出来るだけちいさなこえでヒソヒソと相談した。
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