月明かりにて

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「ここ……霊気がすごく濃い」  と、僕の隣に浮かんだ幽霊、シオリが言う。アパートの一室、夕日が差し込むその部屋に佇んでいるのは僕とシオリだけだ。 「何があった、と思う」  僕は手元のノートパソコンから目を離さず問う。シオリは少し考え……。 「あー、もうネタ切れ!」  と、手足をバタバタさせた。 「シオリが勝手に始めたんだろ。霊能力者ごっこ」 「だってヒマなんだもん」  空中に座り直したシオリが頬を膨らませてぶーを垂れる。 「マサキが早く恋人になってくれないから成仏できないんじゃん」 「幽霊とは付き合わないぞ」  と、僕はようやく書き終えたレポートを保存して、パソコンを閉じた。 「しかも惚れた理由が外見だなんて」 「マサキカッコいいもん」  シオリは元女子高生で、最近交通事故に遭って死んだ。その理由というのが、少し遠くを自転車で走っていた僕に見惚れ、赤信号を渡って撥ねられるという少々——いや、かなりマヌケな理由である。で、心残りは僕と付き合えなかったこと、らしいので、僕が告白を受け入れればいいのだが、こっちだってよく知らない幽霊の女の子と成仏のためとはいえ恋人同士になりたくない。  それで、大学生一人暮らしの僕の部屋に、なってくれるまでと勝手に居候しているのだ。 「僕の外見のどこが良いのか相変わらず分からない。蓼食う虫も好き好き、か」 「え、何て?」 「人の好みはそれぞれ。物好きもいるって諺」 「へええ、覚えとく」ふふふ、とシオリが笑う。 「なに」 「何かさー、マサキの話だと難しいこともすんなり入ってくるなーって思って。——マサキのことが好きだからかな?」  立ち上がった僕の周りを上目遣いでクルクルと回る。 「どう、こんな女の子だと惚れちゃうでしょ」 「惚れない」  僕は断言してジャケットを羽織る。 「ちぇー……あ、どこ行くの」 「晩飯。レポートに時間取られすぎて作るヒマない」 「付いてっていい?」 「止めても付いてくるじゃん」  へへへ、と笑いながら、シオリは僕についてアパートを出た。  割と行きつけになっている中華料理屋で、カウンター端っこの席に陣取ってチャーハンと餃子を注文する。店内は時間のせいもあり混んでいて、隣にもカップルが座っている。  適当にスマホを見ていると、二人が気になることを話し出した。 「そう言えばさー、この近くにある墓地、出るらしいよ」 「えー」  僕がチラリと目をやると、シオリは興味津々なのか、上から覗き込むような格好で二人の話を聞こうとしていた。 「古いお墓が多くて、なんか戦国時代の誰のかわからないものまであるらしくて、落武者っぽいのがさ」 「えっ、怖」  言ったのはカップルではなくシオリだ。 「おま……」  突っ込みそうになって慌てて逆を向く。危なかった。  男は怪訝そうにこちらを見たが、また彼女を見て話し始める。 「後でさー、行ってみない?」 「えー、やだあ、ヒロくんの部屋で良いよお」  甘ったるい声を出す女にケッ、などと思いつつ、その幽霊の話は気になる。もっと聞きたい、と思ったが、男はそれで話を終え、注文した品も来てしまって僕は黙って夕食を取った。
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