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3.美哉と樹
「日下部が?」
「ええ、帰ってきてるみたいですよ」
「・・・連絡来たのか」
「そうですね」
会社の喫煙所、他に人はいない。
企画部「部長」辻美哉と企画部の「エース」淵上樹は恋人同士になって2年。
ふたりが付き合うことになったきっかけのひとつになった、日下部柊真という同僚がいた。美哉とは違うタイプのエリートで、彼が樹に告白したことで、美哉と樹の関係性が急に進展した、キーマンである。
「それで?」
「それでって・・・なんですか?」
「会うのか」
「いや、そこまでの話はしてないですけど」
「・・・・・・」
「大丈夫ですよ、二人きりで会ったりしませんから」
「当たり前だ!」
ツンデレ中のツンデレの美哉。未だに柊真の名前が出ると目が吊り上がる。
樹はそれをにやにやして楽しむ余裕が、最近やっと出てきたところだ。
「美哉さんはお元気ですか、って言ってましたよ」
「・・・俺が?」
「日下部さんは美哉さんのこと、尊敬してるんですよ。だからそんなに嫌わなくても・・・」
「嫌っちゃいない。俺だって日下部のことは認めてる」
「あ、噂をすれば・・・」
「なにっ?」
樹の携帯がメールを受信した。
美哉は樹に顔を近づけ、画面を盗み見た。
「えーっと、なになに?みの・・・べさんて知ってる?って言ってますけど、美哉さん知ってます?」
「・・・みのべ・・・・・・どこかで聞いたような・・・」
「美濃部薫って人ですって」
「みのべ・・・美濃部薫だと?」
「知り合いですか?」
「馬鹿!お前、うちのトップの名前も知らんのかっ!ついこの間うちを買収した成金社長だろうが!」
「えええっ」
相変わらず樹は、世間のニュースに疎かった。美哉はため息を吐いて言った。
「で、その美濃部社長がどうしたんだ?」
「食事に誘われたって・・・」
「はあぁ?」
美哉が携帯で自社のホームページから、新社長の写真を探し出した。
今度は樹が美哉の携帯をのぞきこんだ
「これが・・・美濃部社長ですか」
「そうだ。・・・なかなか・・・」
「いい男ですね・・・」
「そうだな・・・」
「でもどうして美濃部社長に日下部さんが食事に誘われるんでしょうね?社長も・・・ゲイなんでしょうかね?」
「そんな噂聞いたことないぞ。それにお前、すぐそっちに話持って行くな。仕事の話に決まってるだろうが」
「でも、仕事の話なら食事じゃなくても・・・」
「・・・どっちにしろ、俺たちが関わるようなことじゃない」
「そうですね・・・」
「もう行くぞ」
美哉は強制的に話を終わらせた。明らかに虫の居所が悪い。
樹はあわてて美哉を追いかけた。早足で歩く美哉の隣に追いついて、樹は小さな声で囁いた。
「美哉さん、今日の夜・・・家に行ってもいいですか」
「なんだ、急に」
「日下部さんの話してたら・・・なんとなくそんな気分に・・・」
「・・・よくわからん理由だな」
「駄目ですか」
「まあ・・・構わんが」
「やった」
「おいっ、くっつくな、会社だぞっ」
樹は美哉の腰回りを撫で回して、その手をぎりぎりとつねられた。
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