素敵な同居人

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 家を出ると大家さんはいなくなっていた。名残惜しむように俺は何度も振り返った。奇跡が起こらないかと期待しながらアパートを遠ざかる。 「ありがとう、同居人」  恋しかった声がして、振り返った。そこには花霞が掛かっているだけだった。それで十分だと思った。  桜の枝が手を振るように揺れている。花弁が止むことを知らずに降って、俺はまた前を向いて歩き出した。 
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