素敵な同居人

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 随分早く終わったのかと思って顔を上げるとそこに少女がいた。廃れた朱色の着物に黒髪のおかっぱ。人形のような大きな黒目と白い肌に赤い唇がよく映えている。 「っだっ、えっ誰!?」  俺は少女に釘付けにされながら固まった身体から出せるかぎりの声を出した。それでも台所にいる香織が気づかないくらいの声しか出なかった。 「座敷童子だよ」 「座敷童子?」 「貴方が新しい同居人さん?」 「同居人?」  目の前の出来事をやっと脳内処理できて口が動いた。 「座敷童子って悪戯をして幸福を呼ぶ妖怪の?」 「そうだよ。だから貴方はすごく幸運。だって、座敷童子がいる家に越して来たんだもの」 「いやいや意味わかんないし!? 迷子? 部屋間違えちゃったの?」 「座敷童子が部屋を間違えるわけないでしょ。そもそも、私は貴方よりも長くここに住んでるんだから、居候は貴方じゃない」 「いやだって、俺が見学でここに来た時は居なかったよね?」 「どうしたの?」  香織はダンボールと私物が散乱している和室を覗いた。  この状況をどう説明するか。脳内処理が間に合わず一時的に思考が止まる。座敷童子を自称する少女は焦る様子もなく目の前に佇み、香織は俺を見つめて答えを待っている。 「なんか、座敷童子がでてきたんだけど」  座敷童子は口角をあげてウインクをした。見た目と年相応の愛らしい笑顔だ。 「座敷童子!? どこにいるの?」 「どこって、俺の目の前にいるじゃん」 「えっ、どこ?」 「いやだから今ここに……もしかして、見えてない?」  俺は座敷童子を見た。 「私の姿は同居人にしか見えないよ」  何ということだろう。  香織は大きく目を見開いて首を傾げた。生暖かい春風が不法侵入している。
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