うわさ

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 女性たちは兄ちゃんの身なりに驚いたみたいで話を途中にして急いで改札を降りていった。 そしたら何秒もしないうちに「きゃあ」っていう悲鳴と同時にズサっと変な音がして「大丈夫ですか」と呼びかける声が聞こえたんだ。 「モモコォ〜」  見るとさっきの女性が転んでて、カバンから携帯や小物がたくさん飛び出ていた。周りにいる人たちがそれを集めてたら、さっき駆けていった女性3人のうちの1人が兄ちゃんのほうを見てこう言ったんだ。 「あの人が私たちを追いやるからこうなったのよ!」  身に覚えのない視線がこっちにスゥッと差し込んで、知らない顔が兄ちゃんをロックオン。僕も気になって兄ちゃんに顔を向けると、兄ちゃんはその視線に倍返しするように目力を強くした。 「どうしてくれるのよ。モモコ、ケガしたじゃない!」  大勢いる通行人を味方につけたみたいに、その友達が兄ちゃんに向かって強気に出たんだ。 ーー売り言葉に買い言葉。  意味は知ってる。僕もこれは瞬時にヤバイと感じて、あの人の言葉で兄ちゃんにボッと火がつくだろうことは予想出来た。きっと兄ちゃんはあの時複数の映画の中からどのセリフを使おうか選別してたに違いない。そして兄ちゃんの好きなセリフを古い映画からそこに持ってきたんだ。
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