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「やってられんのう。わいらのやることいちいちケチつけられたんじゃ。吐いた唾、飲まんとけよ」
兄ちゃんは誰というわけでなく、集まる視線に対して少し怒り気味で言ったんだと思う。大抵の人はこれで何も言ってこないはずなんだけれど、その友達は兄ちゃんに言い返した。
「元はと言えば、あんたが割り込んで来たからいけないのよ。モモコはね、あんたみたな人にトラウマがあんの。小さい時に色々あって。
だから怖くなって逃げて焦って階段から足を踏み外したのよ。とにかく、まずは謝って。そのあと慰謝料の話をしましょうよ。ここにいるみんなが証人だから」
「お姉さん。言いたいことはそれだけかい。手ぶらで帰るつもりじゃねぇだろうな」
すると通行人のひとりが兄ちゃんに言った。
「どんなご職業か知りませんが、あなたも大人なら、そんな恰好して市民を怖がらせようなんてつまんないことはやめたほうがいいですよ。ただでさえ誤解されますから」
するとデブっちょの駅員は被害者の女性を庇うように医務室に連れて行き、別の若い駅員は兄ちゃんの腕を掴んでグイグイと駅務室に連れて行った。当然僕も同伴者で後をついていったけど、関係ない人たちの冷たい視線が僕にも向けられて、顔をあげて歩けなかった。
そして兄ちゃんはこの騒動でたちまち時の人となる。
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