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ラロは自分の部屋のカーテンを閉めて、できる限り部屋を暗くした。鏡を向かい合わせに置いて、その真ん中に蝋燭を立てる。鏡の中には、何本もの蝋燭の炎が規則正しく揺れていて、無限とも思える世界が広がっていた。それこそ、鏡の中には、自分の知らない世界が存在するのではないかと思えるほどだった。
次第に暇さえあれば、合わせ鏡を覗くようになり、無限に思えるその世界はまさに非日常で、いつか鏡の向こう側の世界に遊びに行ってみたいと本気で考えるようになっていた。
もう一つ、ラロが合わせ鏡の世界に惹かれた理由があった。何回かに一度、いやもっと低い確率かもしれないが、合わせ鏡に映し出される蝋燭の炎が、バラバラに揺れる事があるのだ。そんな時は必ず誰かに見られている感覚があり、ラロは勝手に鏡の世界に住む妖精の仕業だと考えていた。一度だけだが、微かに黒い影が鏡の中を動くところを見た事もあった。
「ラロ、何をしてるの。ダメよ、悪魔がでてくるわ」
ある日、ラロがいつものように合わせ鏡に映る蝋燭の炎を眺めていると、アイナが大きな声で注意をしてきた。続けて入ってきたフェルナンドからも、
「そうだぞ、ラロ。合わせ鏡の中は悪魔の住む世界と繋がっているんだ。悪魔に魅入られると身を滅ぼすんだよ」
と注意を受けた。今や多くの映画や怪談で使われる"合わせ鏡の中の世界は悪魔の世界と繋がっている"という言い伝えは、メキシコがその発祥だと言われている。
"そうなんだ。合わせ鏡の中の世界は悪魔の世界と繋がっているんだ"
じゃあ、あの黒い影も妖精ではなく悪魔だったのか。合わせ鏡の世界に魅入られていた自分は危なかったと感じ、両親からの忠告を頭の片隅に忘れないように仕舞い込んだ。
ラロは高校卒業後、メキシコでも有数の大学に進み、心理学を専攻した。その間も毎週欠かさずに、両親と共に教会に足を運んでいた。
そんなある日、フェルナンドが誘拐容疑で逮捕された。
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