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プロローグ
電気もついていない真っ暗な部屋に一本の蝋燭が灯される。
部屋の中が、ホウッと明るくなった。隣に誰かいれば、この男の目の周りのひどい隈や充血して真っ赤になった目も確認出來たかもしれない。その容貌は、さながら悪魔の様であった。
蝋燭に灯された炎は、窓が空いておらず風が吹き込まないこの部屋でも、微弱な空気の振動によって揺らめいている。蝋燭の炎の揺らめきは、ピンクノイズと呼ばれる”f分の一揺らぎ”と言われ、見ていると自律神経を整える効果がある。あまりの疲労に、男はその揺らめきに吸い込まれそうになったが、何とか意識を保ち、四つ置かれた鏡のうちの一つを覗き込んだ。
数時間後、五回目の鏡を覗く作業を終えて満足そうな笑みを浮かべると、蝋燭の炎を指で摘んで消した。
男はゆっくりと立ち上がり、締め切っていた窓を開けるが、まだ世界は夜の闇が支配していた。
「あと少しだ。あと少しで僕は神になる」
この日、メキシコの小さな田舎町は、あまりにも凄惨な状況になる……
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