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プロローグ
木々の隙間から零れる月明かりが、暗闇の中で視界を与えてくれる。
足元には、本殿へと続く石畳。
一歩一歩踏みしめるたびに、夜の静寂に亀裂が走る。
今夜は、風の音も、虫の声も聞こえない。
ゆっくりと足を動かす。
階段を上り、本殿に近づいていく。
何度も辿った道筋なのに、どこか知らない場所に向かっているかのような感覚に襲われる。
ゆっくりと、本殿の扉を開ける。
闇に閉ざされていた空間に、月の光が入り込む。
光は部屋の一番奥で反射する。
そこに鎮座するのは、金色の派手な飾りで縁取られた丸い鏡。
鏡は、闇夜を照らす満月を映し出す。
鏡は、満月で満たされていく。
月満ちて
隠るる影も
無かりけり
わが居るべきは
こなたにあらじ
満月は、静寂に包まれた山を冷たく見下ろす。
その光は闇夜に混じり、誰もいない夜の神社を照らし続ける。
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