5.夢で現のデザートパーティ

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 窓から差し込む陽の影で、地面に転がったケーキを一心不乱に貪るを見下ろすものが居た。  食卓の上にあった誰かの球体も腕も既にそこにはなく、代わりに、赤いソースが散らばる床を安堵しきった安らかな表情で見つめる、枢木凛湖(くるるぎリンコ)が居た。 「La() el(エル)。私も生贄を使わずに悪魔と一体化する選択をしていたら、なっていたの?」  虚空に問いかけたリンコに答えたのは、リンコの首元からにゅるにゅると這い出してきた闇をも吸い込む暗い黒の靄だった。 「前にも言ったろう。悪魔と契約した者の結末は、悪魔に身体を明け渡し悪魔として生きるか、誰かに悪魔をけしかけ生贄としそれを逃れて人間に戻るかの二つに一つだ」  靄は、闇夜に浮かぶ翡翠の星のような緑の瞳を現し、ニィ、とその目を卑しく細めて、ソースを舐めるを見た。 「だから、彼女がなったのは彼女の心を壊したお前のせいだ」 「そう。でも、仕方ないよね、。だって私達――」  そこで言葉を区切ったリンコは、すっとしゃがむと、床に這いつくばって口を動かすキョーコの乱れた髪に手を伸ばし、愛おしそうに指先で払った。 「だもんね」  ぴっ、と跳ねた返り血を、リンコは艶めかしく舌なめずりをして、呑み込んだ。 「私を人間に戻してくれて、ありがとう。私の恋人(生贄)さん」  咀嚼音の間に、そう呟いたリンコは――。  悪魔、die(ディ・) geSammelte(ゲザン・メルト)をその場に残し、晴天の闇に消えていった。
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