2.囁き――die geSammelte

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2.囁き――die geSammelte

 一青恭子(ひととキョーコ)の朝は、四日に一度の周期で変わる。  今日は世界規模のスポーツ大会の日や二月が一日増える日に似て、その一度の日だった。朝食を作る為に早く起きる。そんな一度。 「お母さん、おはよう。朝ごはん出来てるよ」 「ああ……うん。おはよう。お父さんは?」 「勇衣(ユイ)起こしてる。ついでにゴミ出し用にゴミまとめてる」 「あ、そう。じゃあ私は洗濯でも……」 「洗濯は勇衣(ユイ)の日だよ」 「あら。んーじゃあ食器でも出そうかな」  一青勇衣(ひととユイ)。キョーコの弟だ。中学生。  自慢の弟だった。 「いただきます」  一青(ひとと)家の朝は四人が多い。時々一人二人欠ける事はあるが、たいてい食事は四人でする。 「ところで恭子。最近楽しそうだけど、ひょっとしていい人でも見つかったか?」 「そっ、そんなんじゃないよ。やめてよお父さん」 「なんだ、違うのか。俺が若い時なんかは、もうお母さんにゾッコンでなぁ。あの時だって――」 「父さん、母さんとの惚気話がしたいだけでしょ」  パンに卵が乗ったプレートを平らげながらけらけらと、四人で笑って、バラバラの時間に家を出て。バラバラの時間に家に帰ってきて、四人そろってまた笑って。  キョーコは一番先に「いってきます」を告げ、ローファーをつっかけながら思った。  自分が知らない両親の過去の恋の道行きに出来る幸せに生きるよりも、叶わぬ恋だとしても、今は自分に芽生えたこの気持ちを満開に咲かせたい、と。
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