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4.生贄と嘘
キョーコからの一方的なキスに、リンコは自分の口の中ににゅるんと入り込んできたキョーコの舌を噛んだ。舌先に血が溢れ、反射的にリンコから身体を離したキョーコは、酷く傷ついた様子で眉をハの字に曲げている。
「……なんで?リンコちゃん嬉しくないの両想いなのに」
「ぺっ……。両想い、ね。ある意味では、そうね」
「じゃあ……!!」
「でも、駄目。一青さんはここまで。だって私、一青さんの事あまり知らないし――今のあなたは、醜くて嫌いだもの」
「――え」
口許に手を当てたリンコはくすくすと笑い声を漏らし、それからすぐに上体を反って大声を出して笑いだした。
「私に利用されているとも知らずに、あなたは悪魔と契約までしてっ、くふ、あははっ!ねぇ、誰を殺したの?私のために?」
「え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え」
「私はね、あなたが好きななんでもできる枢木凛湖ちゃんじゃないの。自分の願いのために人を喰らう闇を取り込んだ、悪魔、よ。名前は、そうね――La elとでも言っておきましょうか」
La elと名乗ったそれは、全身からどす黒い靄を伸ばすとそれらが触手のように蠢いて口や目の中に入り、身体を一周して再び口と目に戻っていく。身体を縛るリングのようだった。
「嘘だよね、リンコ……ちゃん。だって、私達、恋人で……デートで、大好きで」
「あなたは騙されたの。枢木凛湖にね。他人を蹴落として主人公になろうとした彼女の手で。枢木凛湖はあなたの事を駒程度にしか思ってなかった」
それは、リンコの身体から真っ黒なリングを生やしたまま、die geSammelteのような幾重にも重なった高く低い声を揺らしてキョーコに迫る。
血の涙を流し半狂乱になったキョーコは、うわ言を漏らしながらその場にうずくまった。
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