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ポストを開けると、そこには一通の手紙があった。かわいい動物が描かれた私好みの封筒の手紙が。
でも、宛先に書かれている名前の漢字が違う。封筒を裏返すと差出人はお祖母ちゃんの名前。でも、お祖母ちゃんって、この住所だったっけ?
首をかしげ玄関に腰をおろすと、封筒の中に入っていた便せんを広げる。
かわいい動物が描かれた私好みの便せんに、鉛筆で何度も書いて消してを繰り返した跡がある手紙。
遠く離れてしまった私に元気? 新しい暮らしになれた?と問いかける手紙。
……私、引っ越しなんてしたっけ?
これ、どう見ても、私宛の手紙じゃあないよね。あ~あ。
お母さんが私の名前を呼んでいる。私は聞こえないふりをする。だって、今、遊んでいるゲームが楽しいんだもの。
お母さんの声がだんだんトゲトゲしさが増してくる。このまま聞こえないふりを続けていると、今遊んでいるゲーム、押し入れの中にしまわれてしまう。しぶしぶゲームをやめ、お母さんの元にいった。
「この手紙、あなたの?」
お母さんの手には、あのかわいい動物が描かれた封筒。
「ううん、違うよ」
首をかしげながら、お母さんは封筒の中に戻した手紙を読み始める。
……ねっ、私宛の手紙じゃないでしょ。
「確かにこの手紙は、あなたのものではないわね。でも……」
読み終えた手紙を封筒に入れ直し、差出人を指差すように置きながら、言葉を続けた。
「あなたに似た名前の子も、お祖母ちゃんと同じ名前の子も、この手紙がここにあるなんて、考えもつかないわよ」
行ったこともない地名。地図の中でしか知らない地名。そこからやって来た手紙。ちょっと行ってみるかと、気楽に行ける距離では、ない場所から来た手紙。
郵便局に間違って届いたと伝えても、封筒は開けた後だし……
「出した人に、手紙が迷子になっていました。と教えてあげたらいいの?」
お母さんは、とびっきりの笑顔でうなずいた。
買い物から帰ってきたお母さんが、私の前に色とりどりの便せんと、一回り大きな封筒を私の前に並べた。あ、もしかして……
「ただ送り返すだけじゃ、なぜ封筒が開いているのかわからないでしょ?」
えー、作文書くの苦手なのに!
それでも私は書いた。私のお家のポストに迷子になっていたこと。封筒を開けてしまったこと。本当の送り主に届くようにと願う言葉。
鉛筆で書いては消して、消しては書いてを繰り返し、
「よくできました。明日、出しておきますからね」
お母さんのOKがでた。
はぁ…… 手紙書くのって、ほんと大変!
それから数日後、ポストを開けるとそこに私宛のハガキがあった。差出人はなんと、あのお祖母ちゃんと同じ名前のあの子。
私は、届いたばかりのハガキを読み出す。 迷子の手紙を送り返してくれたお礼。無事に本当の送り主へ送り直し、届いたこと。
……ああ、ちゃんとあの手紙、待っている人に届いたんだ。よかった、よかった。あの時、手紙を送り返して本当によかった。
ハガキには続きがあった。お父さんに、ちゃんとお礼の手紙を送りなさい。と言われたと。
私はふふふと笑った。
迷子の手紙のやりとりはこれっきりだったけれど、あの迷子の手紙がやって来た地名を耳にするたびに、私はお祖母ちゃんと同じ名前のあの子からの手紙を思い出すのです。
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