俺の家にいる、愛しい人。

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その後の記憶は、断片的にしか残っていない。 結也が雑に脱がせた俺の服を、今度は丁寧に着せてくれながら、悪かった、と呟いたことは覚えている。 そして智佳は、行為の後で着替えを終えいつも通り出かけていったが、もうこの家には戻って来なかった。 その後の二人の関係について俺が聞けるわけもなく、何となくぎこちないまま当初の男同士の暮らしに戻った。俺は仕事や家事に、結也も出張が続いたりと、タイミング良くそれなりに忙しく過ごしていた。 仕事を持ち帰り、珍しく深夜まで自室で作業をしていた日のことだ。 ふと、俺の耳に、規則的な何かの音が入ってきた。家の玄関あたりから、聞こえる気がする。 なぜか今すぐに確かめないといけない気がした俺は、まだ肌寒さが残る季節、上着を羽織りながら、恐る恐る玄関のドアを開けた。 その瞬間目に飛び込んできたのは、自分で置いた覚えのない、段ボール箱だった。外側にはみかんの絵が描かれている。 か細い声は、箱の中から規則的に聞こえてくる。 泣き声、だと思った。 まさかの予想が当たらないことを願い、俺は恐る恐る箱を開けた。
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