俺の家にいる、愛しい人。

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結也は今も大学に残り、講師をしながら研究活動を続けている。 講義を受け持っている日はスーツで出勤するのだが、とにかくその姿が見惚れてしまうほどに格好良い。最高に似合っているのだ。俺がアイロンをかけたワイシャツが、その良さを更に引き立たせているに違いない、とも思っている。 彼女の智佳は、ダンス講師として働いている。スポーツジムでのレッスンを担当したり、クラブでのパフォーマンスに呼ばれたりしているらしい。小柄で、ダンサーらしい引き締まった身体つきだ。 智佳と俺は、何となくあまり二人きりにならないようにしている。特に決まり事を作ったわけではないが、結也との関係を崩さないための、暗黙のルールだと思っている。 智佳は良く笑い、良く泣く。感情表現が豊かだ。物事をはっきり言うのだが、筋は通っているし、相手のことを思いやっての言動だということが良く分かる。そして、結也のことを物凄く愛している。俺の好きな人が好きな人、ということで、傷付けたくない大切な存在だ。智佳が笑顔でいられたら、結也も幸せな気持ちでいられる。少し胸が痛むが、それが俺の幸せでもある。 そんな感じで、俺達の関係は、全てがなんとなくそれなりのバランスで、成り立っていたはずだった。 そう、あの朝までは。
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