10人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
それは、土曜日の朝だった。
俺は昔から、朝型の生活だ。
こうして仕事がない日でも割と早く起きてしまう。早朝からゆっくりと朝食の支度をする時間は、嫌いじゃない。
ちなみに、一緒に住み始めて知ったことだが、結也は朝が弱い。眠くて目が開けられないまま食卓の席に座っている姿を、俺は台所から密かに眺めている。可愛くてたまらない。でも、好みの朝食が並んでいることに気がついた瞬間、パッと表情が変わる。子どもみたいに一生懸命食べ始める様子を見ていると、愛おしくて満ち足りた気持ちになる。
智佳はまだ帰っていないようだ。昨日の夜クラブのイベントがあると言っていたので、いつも通り今日のお昼頃の帰宅になるだろう。
二人きりの朝食になるかもしれない。
あいつ、朝は和食派なんだよな。でも魚より肉が好き。今なら下味をつける時間も十分にある。生姜焼きはどうだろうか。
普段は智佳も寝ているので遠慮しているが、今日は何かと理由をつけて、部屋まで起こしに行くというのも…。
普段の我慢の分なのか、妄想が止まらない。そんな俺の目を覚まさせるかのように、玄関の扉が開く音がした。
「ただいま。」
早朝ということもあり、帰宅した智佳は小声でリビングに入ってきた。
「おかえり。今日は早めだね。」
がっかりしている気持ちを悟られないよう、俺も小声で、そして丁寧に言葉を返した。
「うん、疲れちゃって、帰ってきた。」
そう言って智佳は、食卓の椅子に座った。そこは、普段結也が座っている席だろ、と俺はつい思ってしまった。やはり智佳の帰宅したタイミングに、やや心を乱されているのかもしれない。
「ねぇ。」
智佳が話しかけてきた。
「ん?」
「広輔くん、この家に、好きな人がいるでしょ。」
最初のコメントを投稿しよう!