俺の家にいる、愛しい人。

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実の所、俺は全くそういう経験がない。 性別に関わらず、だ。 それでも今、結也が取り出した例のモノを手際良く俺に装着している行為、それが挿入の準備だという知識程度は、ある。 「ちょ、待っ…」 俺の言葉を待つことなく、智佳が動いた。そして、完全に状況の整った俺の部分に跨り、腰を下ろした。 「あっ……っ」 湿った音を立て、俺の一部が温かい場所に吸い込まれていく。 既に頭の中が真っ白になっている俺に、結也が次を仕掛けてくる。普段出口としてしか使わないその場所に、指を滑り込ませてきたのだ。 「うぁっ……っ…!」 中で結也の指先が動くたび、たまらない刺激で、腰が勝手に踊るような動きをしてしまう。 智佳がその動きに反応して、声を上げる。 結也も興奮しているということが、背後にはっきりと感じられる。 今俺がしていること、されていることの善悪は、第三者ならどう判断するだろうか。 俺は、結也がこの瞬間を『善』と感じていてくれるなら、躊躇うことなくこの快感に溺れたいと思った。 俺と結也が結ばれることは、恐らくない。そんなことはわかっているから、俺が結也を満たす何かを与えることができるなら、もうそれで充分だ。そう思っている。 思っているはずなのに、結也が大切にしている智佳の存在を、俺にはできないものを持っている智佳の身体を、あいつの目の前でどうにかしてしまいたいというどす黒い気持ちがあったことを、初めて感じた。 そして、ひどく悲しく虚しかった。 今の俺と智佳のように、向かい合って、抱き合いたい、その相手は結也なのに。 様々な感情が入り混じる中、結局のところ俺は快楽に飲み込まれ、結也を感じながら智佳の中で、果てた。全てを出し切った俺から、そっと智佳が離れた。そして結也も。 後方の支えを失い、初めての行為に力尽きた俺は、起き上がる気力もなくそのまま床に横たわった。 そして、手を伸ばせば届く位置で、そのまま事もなげに始まった結也と智佳の愛の行為を、ただぼんやりと、見つめていた。
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