第1話 モブ男

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第1話 モブ男

 ある男はこの世から自分以外の人間がいなくなったらどうなるんだろうと考えた。  大学生の男がどうしようもなく暇な講義を受けている時だった。机に頬杖をついてふと思った。今見えている黒板の前の教授が、目の前の同窓の学生が、突然皆々死んでしまったらどうなるんだろう……。  男にとってこの想像は幼い頃からしてきたものだった。幼い頃から幾度も幾度も。最初に考えたのは小学生の時のことだ。そんな頃から指の爪を切るくらいの頻度で思い浮かべていた。人間が消え去って崩壊した世界のことを。  別に人生に退屈していたとか、この社会で生きるのが苦しいとかいうのでもなく。人が死ぬのを見てみたいとか、孤独でも俺は生きていけるとか言っちゃう痛い中二病みたいなものでもなく……。  それは、男にとって純粋な興味だった。  例えば自分の指で銃を作れば本当に弾丸が飛ばせるとして、それを今見える人間全ての頭に撃ち込めば……例えば突然地球に隕石が降り注いで自分以外が全て死んでしまったら……広がる景色はどんな風だろう。自分は何を思うんだろう。  そんなありえない世界を頭の中に創造して、その世界の人が死んでいく過程や皆が死んだ後の自分を見ているのが好きだった。心臓の鼓動が弱まると共に、なぜだか力が湧いてきた。不思議な感覚だ。
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