ウーマンデザイア

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 その当日、遂にその時がやって来た。山田は荒尾家の門前に立ってテレビドアホンを押すと、「ああ、孝志さんじゃない。」とモニターに映った山田を見て言う美野里の声が玄関子機から聞こえて来た。久しぶりに聴いた美声だった。山田は思いの外、弾んだ声だったので嬉しくなって、「おはよう。」と言うと、「おはよう。」と明るい声が返って来た。 「あの、ちょっと今日、言いたいことがあって。」と山田は言うと、「何?今開けるから、ちょっと待ってて。」とまた明るい声が聞こえて来たので単純に更に嬉しくなった。程なくして玄関ドアから美野里が出て来て門扉を開け、「さあ、入って。」と好意的な笑顔で言うので山田は更に更に嬉しくなって舞い上がって歓迎されている気がしてこれはいけるかもと期待感が膨らんだ。  通されたのは応接間だった。色んな賞状やトロフィーが飾ってある。美野里の物も多くある。自分の部屋にもあるのだろう。天は二物を与えた。益々美しさを増した美野里と面と向かってソファに座った山田は、有為な美女に圧倒されながら彼女の淹れたコーヒーを飲みつつ話すことになった。 「この度は大学合格おめでとう。」 「ありがとう。誰から訊いたの?」 「君のお父さんから。」 「そう。」と美野里は言うと、瑞々しい口元をにやりとも歪めたとも取れる微妙な表情をしてから、「何か、今日の孝志さん、硬いわ。」と言った。 「ああ、そうかもしれない。」 「ふふ、変な答え方。どうしたの?まさか久しぶりに会って緊張してるの?」 「いや、君がずっと何だか僕を避けているような気がして・・・」 「何で私が孝志さんを避けなきゃいけないの?」 「じゃあ、そのー」と山田が言って次の言葉を見つけようとしていると、美野里は少し前屈みになって山田の顔を悪戯っぽく覗き込んだ。「あっ、そうそう、言いたいことがあるって言ってたわね。何?」  漸次、美野里がからかうような態度になって来たので山田はあの時、見た夢のように僕は弄ばれているのかと思えて来て告白する勇気が削がれて来た。そして気恥ずかしくなって紅潮した。 「ほんとにどうしたの?赤くなっちゃって。」  見透かした上で完全に面白がっている。山田はそう思わなくもなかったが、遠距離恋愛を夢見つつ、もう駄目元だ!と自棄気味になって告白せずにはいられない切実な思いを吐露した。 「ぼ、僕は美野里ちゃんが好きだ。だから頼む。付き合ってくれ!」  すると、美野里はやっぱりと思ってにんまりし、淡々と言った。 「私、付き合っている人がいるの。ごめんなさい。」  氷のように冷たい響きを伴った美しい声だった。山田が鉛のように重くなった頭をがっくり項垂れると、美野里は優しげに言った。 「誘ってくれてありがとう」  口先だけの言葉だった。その証拠に彼女は雪解けの水のように冷ややかに微笑していた。山田は項垂れていた為にその表情を見れなかったのがせめてもの幸いだったが、何か答えようと顔を徐に上げ、美野里を見ると、腰から上を微妙にくねらせ、まるで誘惑するようだったので幻影に化かされるように放心した。そして謝絶されたショックや憂いや蟠りを忘れて無性に欲しくなった。その時、美野里は麗しい瞳を貪婪に輝かせ、驚くべきことを言った。 「ゴム付きならやらしてあげても良いわよ。」 「えっ!?」当然の如く開いた口が塞がらなくなり、目を皿にして驚愕し、瞠目する山田に美野里は魔性的な笑みを漏らして言った。 「知らなかったの?私、ヤリマンなの。」 「えー!」と山田は今まで眠っていた猿が飛び起きたように声を上げた。 「ふふふ、何、びっくりしてるの。私、上京する前に孝志さんと一回やっておきたかったの。」 「な、何やてー!」と山田は思わず大阪弁で叫んだ。 「うふふ。なのに私、お庭で日光浴して誘惑しなくなったでしょ。何でか分かる?」 「えっ、ああ、いや、分からない。」と山田がどぎまぎして答えると、美野里はここぞとばかりに言った。 「私、男の子を連れ込んではやってたの。」 「えー!」と山田がまた吃驚すると、美野里はしたり顔で言った。 「孝志さんが私を守ってると思ってる間にね。」  放胆、放縦、淫乱を恣にして来た美野里を今更、思い知り、驚きっぱなしでいる山田に彼女は猶もしたり顔で言った。 「借家からは玄関見えないものね。だから孝志さんの監視は全て空振りだったってわけ。うふふ。」  何という女だと山田は心の内で唸らない訳にはいかなかった。ふと心配になって、「妊娠したらどうするんだ?」と訊くと、美野里は平然と言った。 「大丈夫。誰にもゴム付けさせてるし、ピル飲んでるから。そこのところは孝志さんも安心して。」 「安心してって・・・」  山田は只々驚き呆れ返るばかりだった。  
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