椿姫の家

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苦労してきた母親を悲しませたくなかった。 「自分さえ我慢すれば」 それでよかった。 でも、 「夏に私の就職先が決まりました。だから私、お母さんにお義父さんのことを話したんです。だって私が家を出たら、この家には珠樹が残される。珠樹のことが心配だった。でもそうしたら、お母さんが死んじゃいました……」 「事故、じゃないの?」 「わからない。わからないんです」 椿姫はわっと泣き伏す。 「夢のかけはしの上流にあるカヌー乗り場で、お母さんの車が見つかったんです。カヌーやパドルもそこに保管されていて、だからお母さんは、ひとりでカヌーに乗って川に出たんだろうって。でもお母さんがカヌーに乗れるなんて話、私、聞いたこともない」 誰でも乗れるカナディアンカヤック(カヌー)と違い、競技用カヌーは練習なしで乗るのは難しい。 でも絶対に乗れないかと言われると、そうでもなくて、バランス感覚さえつかめれば素人でもこぎ出すことは出来る。
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