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恐竜博物館から勝山駅直通のバスに乗って、アンリを送っていった。
「案内してくれて、ありがとう」
アンリは礼を言ってくれるが、
「ううん、こっちこそありがとう。お昼もごちそうになったし、お土産もこんなにたくさん」
珠樹は、アンリに買ってもらったミュージアムショップの袋を、大事そうに抱えている。
椿姫は『えち鉄』の愛称で親しまれている、えちぜん鉄道の車両を指さして、
「これに乗れば福井駅まで、すぐですから」
アンリはここの人ではない。
偶然、ここを訪れただけの旅人だ。
福井駅からまたすぐ、どこかへ旅立っていってしまう。
そんなの当り前なのに、どうしても寂しい。
すると、
「いいな……」
珠樹がポツリと呟いた。
「アンリくんは、行けていいな」
「珠樹……」
椿姫と珠樹は、どこへも行けない。
田舎の小さな村に捕らわれて、きっとこのまま一生を過ごすのだ。
それは椿姫が就職しても何も変わらない。
母が死んだあの日から、椿姫と珠樹の時間は止まってしまっている。
するとアンリは、
「行こうよ」
何気なく笑って、手を差し出してきた。
「――え」
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