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「僕と一緒に行こう。この電車に乗れば、永平寺や東尋坊にも行けるんだろう」
跳ねた心臓を、なんとか宥める。
そうだ。
別にアンリは椿姫たちを、この町から連れ出してくれようとしたわけではない。
椿姫と珠樹が寂しい顔をしたから、もう少し気晴らしをくれようとしただけ。
椿姫は無理やり笑って、
「アンリさん、平日に小学生を連れ回してると、警察に通報されちゃいますよ」
冗談めかして首を振った。
すると、
「そう、だね」
アンリはあっさり引き下がって、差し出した手を引っ込める。
「――」
やっぱり、本気のわけがない。
椿姫たちをこの町から連れ出してくれる人なんか、誰もいない。
今にもアンリに付いていってしまいそうになる珠樹の肩を、椿姫は上から強く押さえる。
「アンリさんと過ごせて、とても楽しかったです」
椿姫の体の震えが珠樹にも伝わるのか、珠樹はうつむいて、それ以上は何も言わなかった。
「さよなら」
「さよなら」
えちぜん鉄道のドアが閉まって、電車が走り出す。
電車の姿が見えなくなるまで、椿姫と珠樹はホームに立ち尽くしていた。
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