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鬼のまれびと
椿姫と珠樹の家の最寄りの勝原駅
家に帰ると湯飲み茶碗が椿姫に向かって飛んできた。
「こんな時間まで一体どこほっつき歩いてたんだ!」
とっさに腕で庇ったが、入っていた酒で服が濡れる。
また酔っている。
今夜は家で飲んでいたのかと、うんざりする。
「ちょっと出かけてただけだよ。ご飯も珠樹と食べてきたから」
ミュージアムショップの袋を隠すように抱える珠樹を、子ども部屋に押し込み、椿姫は何ごとも無かったのようにふすまを閉める。
「いまお義父さんのご飯も用意するね」
父親とは目を合わせないようにして、エプロンを手に取る。
すると、
「ふざけんな!」
いきなり髪を掴まれ引き倒された。
「親を放って、どこ遊び歩いてんだ」
「――」
殴られる。
こうなるともう何を言っても通じないから、椿姫はただ耐えるしかない。
でも、
「なんで黙ってんだよ、てめぇはよ!」
もうムチャクチャだ。
椿姫はひたすら体を丸めて、嵐が過ぎ去るのを待つ。
さっきまであんなに楽しかったのに、あっという間に地獄に戻って来てしまった。
アンリと過ごしたひとときが、夢みたいだ。
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