鬼のまれびと

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やがて男は、息切れしながら顔をあげた。 アルコールと運動不足で体力が衰えているのだ。 立っていって、テーブルに置いてあった一升瓶を瓶ごとあおって飲んだ。 暴力が終わっても、珠樹はぐったりと床に伏せたままだった。 熱を持った肌に板張りの床が気持ちいい。 すると、ギシリと床を鳴らして、目の前にあの男の足が立った。 仰ぎ見れば、男が不気味な笑みを浮かべて、ぐったりした椿姫を見下ろしている。 その顔に、椿姫の全身が粟立った。 とっさに逃げ出そうとしたが、支えにした腕が蹴り飛ばされて、顔から床に落ちる。 顎に痺れが走って、骨に響く痛みに歯を食いしばった。 そこに、ふっとかけられる酒臭い息。 酒に焼けた赤黒い顔、欲望に歪められた男の目。 「イヤだ!」 たまらず悲鳴をあげた。 「近寄らないで、イヤ!」 椿姫は男の腕をすり抜けて壁際まで下がった。 「それ以上近づいたら大声を出します。ご近所中に聞こえるやつです」
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