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内臓が腐った臭いのする男の唾液が、椿姫の首をナメクジのように這い回る。
無遠慮に体中を撫で回す手は、小学生のころの記憶を否が応でも思い出させた。
あまりの気持ち悪さに、思わず吐き気を覚えて口を押さえた。
『イヤダイヤダイヤダイヤダ……』
声にならない悲鳴がグルグル回る。
その時、
「ギャッ!」
ヒキガエルが潰れたような声がして、いきなり椿姫の体から重みが消えた。
そこに立っていたのは、
「……珠樹」
ゴルフクラブを握って真っ青な顔をした珠樹だった。
「珠樹、あんたどうしたの?」
紙のような顔色の珠樹に、椿姫は思わず身を起こす。
その自分の手が、真っ赤だ。
「――!」
気づくと、ゴルフクラブで頭を殴られた義父が、ぐったりと横たわっている。
義父の頭からは今もなお、ドクドクと赤い血が流れ出している。
「お、姉ちゃん、私……」
珠樹が男を殴ったのだと、やっと気づいた。
珠樹は、
「私……」
ゴルフクラブを握ったまま激しく震えている。
「珠樹、大丈――」
その時、いきおいよく玄関のドアが開いた。
誰かが椿姫の声を聞きつけたのかと振り返ると――。
入って来たのは、アンリだった。
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