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椿姫の家
「このお兄ちゃんダレ?」
案の定、出迎えた妹の珠樹は顔をしかめてみせた。
小学校6年生ともなれば、ヘタな言い訳も出来ず、
「夢のかけはしで会ったんだよ。ご飯食べてってもらうと思って連れて来た」
正直に言うと、
「えっ、あんな場所に?」
珠樹は目を丸くする。
そして何かを悟ったように、
「そうだね、お腹いっぱいになれば変なことも考えなくなるね」
うんうんうなずいている。
アンリは困ったような苦笑いを浮かべて、
「僕は橋を見に来たんだよ。でも思いの外遠い場所で驚いた。そういう椿姫ちゃんこそ、何だってあんな所に?」
子どものような呼び方にムッとする。
椿姫は4月から就職も決まっている、もう立派な18歳なのだ。
それで思わず、
「夏にあの橋の下でお母さんが浮いていたんです。今日はお母さんの月命日だから」
「ごめん」
アンリはすぐに謝ってくれたが、
「ううん別に」
言ってから後悔した。
ただの旅行者に気軽に話すことじゃない。
でもアンリは、
「お母さんは、事故?」
興味を持ったように聞いてくるので、
「座っててください。すぐにご飯用意するから」
椿姫はエプロンをつけて、無理やり話題をそらした。
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