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「お母さんは殺されたんだよ!」
叫んだのは珠樹だ。
「ちょっと珠樹」
「だってお姉ちゃん……」
「殺されたなんて、穏やかじゃないね」
アンリの静かな声が逆に喧噪に割って入ってくる。
不思議な声だ。
椿姫は慌てて、
「違います。事故かそれとも自殺なのか、まだわかってないだけで」
でも珠樹はまた、
「でもお母さんには、自殺する理由なんかないじゃない」
「珠樹は黙ってな!」
つい声を荒げてしまった。
珠樹はしょんぼりとうなだれる。
椿姫はふたりに背を向けてしまうと、
「おとなしく待っててよ。ご飯食べなきゃ」
「ごめんなさい。変な話を聞かせて」
カレーをよそった皿をアンリの前に置く。
アンリは首を振って、
「僕は何もしてあげられないから」
それはそうだ。
アンリはただの旅人で、この集落に降りたのだって、ちょっとした気まぐれ。
椿姫と珠樹の姉妹とは何の関係もない人。
「……うん、そうですよね」
なんとなく寂しくなったが、椿姫は無理やり笑顔を浮かべた。
食欲なんて、すっかり失っていた。
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