25人が本棚に入れています
本棚に追加
その時、玄関のドアがガラリと開けられる。
それから、
「おおい、帰ったぞ」
だみ声の大声。
珠樹がビクッと身をすくませる。
今夜も酔っている。
椿姫は
「ヤバイ、お義父さんが帰ってきた」
どうしてこういう日に限って早く帰ってくるのだろう。
「ごめんなさいアンリさん、ちょっと隠れてて」
「え、隠れるってどうして?」
「いいから早く!」
まだぐずぐす言うアンリを、強引に縁側から外に連れ出した。
夜も更けてから、やっとアンリを匿った車庫に行けた。
「ごめんなさい。寒かったでしょう」
取ってきた軽自動車のキーと、靴をアンリに渡す。
暖房も何もない車庫で、しかも裸足で待たせたのだ。
さぞかし冷えただろう。
でもアンリは、
「車のエンジンが温かかったから平気だよ。それにキミと出会わなきゃ、僕は今ごろ、まだあの橋の上で凍えていただろうからね」
ふわりと笑ってくれる。
椿姫はその笑みから目をそらして、
「もう最終の越美北戦も出ちゃいました。今夜はここで過ごしてもらわなくちゃなりません」
列車は日に5本しか停まらない。
イヤになるくらい田舎なのだ。
「明日の朝、5:51分の福井行きのがあるから、それに乗ってください」
「うん、ありがとう」
アンリはそう言って、椿姫の手から毛布を受け取った。
最初のコメントを投稿しよう!