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それ以上何も言わないアンリに、椿姫は気まずさに耐えられなくなって、
「私、何か食べる物持ってきますね」
すると、
「椿姫ちゃん」
アンリがその手を掴んだ。
その手が驚くほど熱い。
いや、椿姫の手が異様に冷たいのだ。
アンリは薄く目をすがめると、
「椿姫ちゃん、あの男に何かされてない?」
「!」
優しい声だがツララのように突き刺さる。
なんとか、
「……わかりません」
答えるが、
「ごめん、自転車に乗ってる時に、首の痣が見えちゃったんだ」
椿姫は慌てて首を押さえる。
「さっき腕まくりした時に腕にも」
今度は右腕を押さえる。
椿姫はまるで、アンリの操り人形だ。
おもしろいように、アンリの指さす場所を隠そうとする。
アンリは頬を歪めて、
「ごめん、そっちは嘘。でもきっと腕にもあると思った。見せてくれるかい」
アンリは優しかったが、逆らえない声だ。
椿姫はおずおずと右腕の袖をまくり上げる。
そこには、おびただしい数の丸い火傷の痕。
「タバコ、だね」
「……」
椿姫の沈黙が答えだった。
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