love affair 01

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love affair 01

 高校三年の夏休みも終わって、そろそろ本気で受験勉強に取り組みだした頃、私はよく図書館で彼氏と勉強していた。  この人、勉強中にちょこちょこと話しかけてきたりしてちょっと面倒くさい。  私はどちらかと言うと勉強は短時間に集中してやってしまいたいタイプだから、本当は一人で勉強したいんだけど、一応、つきあいで。  また、彼氏が手を休めて口を開いた。 「大学、同じところに行こうな。受験頑張ろうぜ」  ……なんて言われたら、つい、 「あたし、第一志望F女子大なんだよね」  と、笑顔で返してしまった。  今、私の第一志望校が決まった気がする。  ていうかホント、おしゃべりしてないで勉強しろよって思うんだけど。 「は? だって、るりは国公立文系クラスだろ?」 「みんな私大も受けるじゃん。大学ひとつしかないわけじゃないでしょ」 「それは、そうだけど……」  まだ何か言いたげな彼氏から目をそらして私はため息をつき、また机の上の問題集に視線を戻した。  付き合おうって言われて、その時フリーだったら普通に付き合ってあげるし、キスもえっちもするけど、一緒に大学行こうとかはちょっと、引くかな。  自分から好きになって付き合ってるわけじゃないから、余計にそういうのが面倒に感じるんだと思う。  学校の行き帰りは毎日一緒とか、毎日電話やLINEするとか。  そういうのはあまり好きじゃない。  そういうのが苦じゃなくて逆に楽しいって感じられる男の子って、いるのかな?  結局、その彼氏とはその後すぐに別れた。  でも、放課後は図書館で勉強する習慣は変えないことにした。  家に帰るとどうしてもテレビを観たりのんびりしちゃって、すぐに勉強って気分にはなりにくい。  ここで二時間くらい集中して勉強して、夜に家でまた二時間くらい勉強するようにすると、効率がいい気がした。  図書館の奥の方には一人用の机がいくつか並んでいる。  分厚い文学全集がずらっと並ぶ棚の側で、そんな本を探しに来る生徒はめったにいないし、仕切りもついている形の机だから、集中しやすい感じがして、出来るだけその席に座るようにしてる。  早めに行かないとすぐに他の人に座られてしまうから、帰りのホームルームが終わったらすぐに図書館に行くようにしているけど、その日はもう席が埋まってしまっていた。  ……寝るくらいなら、他の場所に行ってくれたらいいのに。  一番奥の机には、男の子が突っ伏すようにして寝ていた。  はあ、とため息をついたとき、その男の子がむくりと起き上がった。 「高田るりさん、ですよね?」 「えっ、うん」  私が返事をすると、ニッコリと笑って立ち上がる。 「オレ、るりさんのこと、好きなんですよ。付き合ってください」  あまりにシンプルな告白に、少し驚いた。  ていうか、全然知らない人から告白されるのってあまりなかったかも。  高校に入ってからは『友達の友達』って感じでLINE交換したあとにメッセージが来て言われる、みたいな流れがほとんどだった。 「えっと、……一年生?」  ベストの胸元についている校章のエンブレムの色で、彼が一年生であることがわかった。  一年生は赤、二年生は緑、三年生が青に分かれている。 「あ、うん、羽鳥空って言います。よろしくー」 「……よろしく……」  一年かー、と思ってその子のことを見てみた。  ふわふわとした明るい色の髪、人懐っこそうな笑顔。  なんと言うか、子犬を想像させる子だ。  一年生のせいかまだそんなに背は高くないけど、制服の着崩し方は一年生のくせにけっこう垢ぬけてる。  ていうか、かなり、チャラい。  その分余計に軽く見えてしまう。 「ていうか、学校でナンパ?」  たまにいるんだよね、『落としたら勝ち』みたいな感じで賭けしてたりするヤツ。  そういうのは途中までイイ気分にさせておいてから振ってやるんだけど。 「えー、ナンパなんかじゃないって。マジで言ってんの」  その割には、軽いよなあ……。 「あたし、受験勉強あるんだけど」 「勉強の時はジャマしないようにするから、大丈夫」  そうかなあ?  今現在、微妙に邪魔してない? 「あと半年で卒業しちゃうよ?」  と言うと、目をくりくりと動かしてちょっと考えるような顔をしてから、 「それで切れちゃうなら、そこまでなんじゃない? ま、今はそこまでにはなりたくないなってのはあるけど」  と言った。  まあ、正直だし、案外あっさりしていそうな気がする。 「んー……、じゃあ、付き合ってあげてもいいよ」 「ほんと? すっげーうれしい」  って笑う顔が本当に嬉しそうに見える。  やっぱ、カワイイかも。 「じゃあ、付き合う記念に、キスしてもいい?」 「えっ?」 「付き合うなら、キスくらいするじゃん?」 「うん……まあ……うん?」  そうだけど、今告白されたばかりなんだけど、そういうことになるのかな?  空は私の手を取って本棚の間に引き込む。  私の背中を本棚に軽く押しつけるようにして、空は私のすぐ前に立った。 「ホント、るりさんって至近距離で見てもかわいいんだ」 「……ありがとう」  自分では別にそんなふうに思っていないだけに、そういう言葉って返事に困るんだよね。  とりあえず礼を言うと、空は満足そうに笑う。  キュッと口角が上がるのが、カワイイ。  そして、空の顔がゆっくり近づいてきて、唇が重なった。 「ん……」  唇を舌先で舐めて、その中へ入り込む。  私の口の中で空の舌が動き回る。 「……っふ……」  肩を抱いていた手が背中に回って、身体を密着させて抱きしめた。  この子、一年のくせに、キスもそれ以上も絶対初めてじゃない、って思った。  空の右手がゆっくりと身体の上で動き出す。 「ねえ、ちょっと……こんな、とこで……」  おしりに触りかかった空の手を抑えると、その指が私の指に絡まる。 「でも、我慢できそうにないんだけど」  少し掠れた囁き声にどきんとする。  カワイイ系かと思ったけど、意外と男っぽいんだ。 「……でも、学校でこういうのは、やだ」 「じゃあ、学校でなければいいってコト?」  空はそう言って、キュッと口角を上げて笑った。  学校からバスに乗って終点の地下鉄の駅で降りる。  大きな公園に沿って一駅分ほど歩くと、マンションの間の細い道に何軒かのラブホテルがある。  制服のままでこういう所を歩くのは目立ちそうだけど、平日のまだ早い夕方には歩いている人はいなくて、誰かに見つかったり注意されるなんてこともなかった。 「……なんで一年がこういう所、知ってるかな」 「物知りだから」  それってちょっと違うと思う。  バスを降りた頃から、空は私の手を握って歩いていた。  迷うことなく一軒のホテルに入って行く。  ……雰囲気は悪くない、きれいなホテルだった。  バスの中で少し話をしたところでは、空は私とバスの方向が同じなことや、私が前の前の彼氏と付き合ってる時に私を好きになったとかいうこと。  空は、女の子と付き合うのは初めてではないってこと。  『初めてじゃない』どころかさっきのキスではすごく経験ありそうな気がしたけど、そこまでは聞かなかった。  部屋に入るなり、空はまた私を抱きすくめて唇を重ねた。 「ま、待って……シャワーとか……」 「待てないよ。我慢できないって言ったじゃん」  そう言って空は、私のベストの裾から手を入れて、ブラウスの上から身体を触る。  大きなベッドの端に座って、何度もキスを繰り返した。 「んん……もう……ちょっと、待ってよ……」  ブラウスの襟のリボンタイは無くしたら困るから、自分で外してベッド横のサイドテーブルに置いた。  ベストを脱いだらその後からすぐ、空がブラウスのボタンを外していく。 「へええ……意外だな」 「何が?」 「ギンガムチェックなんだ」  肌蹴たブラウスの胸元から見えたブラは、赤白のチェック柄。 「変?」 「ううん、かわいい。でももっと大人っぽいのかと思った」 「普通、だよ……っん……」  空の手がブラウスの中に入って、胸の膨らみに触れた。 「あっ……あん……」  ブラの布地の上から、先端を軽く摘む。 「ヤバイ、その声。すっげー興奮する」  空は私の首元に唇を当てながらくすくす笑う。 「や、あ……んん……」 「声、我慢しないでよ」  そう言いながら、私の背中に手をまわして、ブラのホックを外してしまう。 「ちょ……キミ、こういうこと慣れ過ぎ……」 「空って呼んでよ」 「ね……空……」 「ちょっと前に、大学生のオネエサンと付き合ってたことがあって。イロイロ教えてもらっちゃったんだよね」  なるほどね。 「だからちゃんとるりさんのことも、気持ち良くしてあげるから」 「すっごい自信……」  過剰じゃない? って言おうとしたところで、唇が塞がれた。  今どきの一年ってこんななの? と、ちょっと驚いた。  今までつきあった男子の中で、こんなに女の子の扱いがうまい子っていたっけ? って思うくらい。  こんなふうにセックスまでしておいてなんだけど、まだ私はこの子のことそんなに信用してない。  だってこんなの、普通にナンパみたいだもの。  ホテルを出てから、同じ方向の地下鉄に乗って、空は二駅移動したところで降りて行った。  ……明日の約束も何もしなかった。  次の日、いつもと同じに図書館に行って、いつもと同じ席に座る。  しばらく一人で勉強していたら、 「るりさん」  と、声をかけられた。 「あ……空」 「よかった、忘れられてなかったみたい」  そう言って、昨日と同じ無邪気そうな笑顔を見せる。 「忘れるってことはないけど」 「オレ座るとこないね?」 「……ないね」  ここは一人用の机だから、空の座る場所はない。 「椅子持ってきていい? ジャマしないから」  本当だったら、あまり他人には居てほしくない。  居てほしくない相手だったら、私は当たり前のようにここには居ないでって言うところだけど。 「ジャマしないなら、いいよ」  私の返事を聞いて、空はにっこりと笑った。  下校時刻を知らせるチャイムが鳴るまで、空はずっと黙って私の側に座っていた。 「ジャマしなかったしょ?」  途中、少しの間とっても眠たそうにしていたことはあったけど。  それでも妙に視線を感じるということもなく、一人でいるのとあまり変わらずに勉強できた気がする。 「うん、まあ……でも、暇だったでしょ?」 「るりさんの側にいられるなら、全然いいよ」 「……そういうのよく簡単に出てくるよね……」  冗談なのか本気なのか、全然わからない。  日が傾いた外に出ると今日はずいぶん風が冷たい。 「ね、手つないでもいい?」  そう言って、私の顔を覗きこむ。 「え……うん」  返事をしたのとほとんど同時に、私の手が空の手に包まれる。  まだそんなに大きいとは感じない、でも、女の手とは明らかに違う感触。 「でさ、昨日聞くの忘れちゃってたんだけど、LINEとかなんか、アカウント教えて?」  と、繋いでいない方の手をポケットに入れて、スマホを取り出す。 「……それって忘れるようなコト?」 「るりさんとつきあえるとかえっちしたとかで、テンション上がっちゃってさ」 「……何言ってるんだか……」  とか言いながらも、私もバッグからスマホを出した。 「じゃ、とりあえずLINEで」 「うん、オッケー」  自分のスマホ画面にQRコードを表示させて空がそれを読み取る。 「へへ、うれしいなあ」  それはもうほんとうにうれしそうな笑顔を見せるけど、昨日は普通にナンパっぽかったし、この子、どこまで本気なのか全然わからない。
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